【本の感想】ディーン・クーンツ『ドラゴン・ティアーズ』

ディーン・クーンツ『ドラゴン・ティアーズ』(原著)

三大モダンホラー作家といえば、スティーヴン・キングロバート・R・マキャモン、そしてディーン・(R)・クーンツと言われていた時がありました。

自分の好みでいうと断然、マキャモンの非スーパーナチュラルものですが、たまにディーン・クーンツ(Dean Koontz)の作品を読みたくなります。問答無用のジェットコースター的展開と、必ず正義と愛が勝つという予定調和的結末。些細な強引さに目を瞑れば、心地良い読後感を得られるのです。最近のクーンツは知りませんが、1990年代前後の作品は、ヘビーな読み物の箸休め的な位置付けだったりします。

チクタク、チクタク、おまえを夜明けまでに殺す

ハリー刑事の前に出現した”チクタクマン”は、そう言い残して土くれと化しました。”チクタクマン”に友人を殺害されたハリーは、相棒のコニーと共に”チクタクマン”の追跡を開始します・・・

『ドラゴン・ティアーズ』(Dragon Tears)(1993年)は、殺戮の限りを尽くす不死身の”チクタクマン”に魅入られたハリーが、危機に瀕しながらも死力を注いで立ち向かうというスーパーナチュラルなストーリー。

夜明けまでのタイムリミット12時間のうちに、正体不明の異能者を突き止めなければならないという怒涛のジェットコースター的展開を見せます。

クーンツのいつものお約束の登場人物としては、個性的な美人女性刑事コニー、そして、犬のウーファーです。”チクタクマン”に追われる浮浪者のサミー、ホームレスのジャネットとダニー親子が、ハリーの仲間に加わります。

”チクタクマン”を創造する異能者が、”愛”を知らない男という設定で、クーンツ定番の必ず愛が勝つは、本作品でも明快です。土くれから怪人を創り出すだけでなく、時を止めることができるという究極の異能者を、ハリーらがどのように倒すのか、が見所です。時が止まった世界で繰り広げられる、緊迫の攻防シーンも良いですね。

本作品は、ハラハラドキドキや、取って付けたようなグロテスクなシーンがあって、まさにB級SF映画の趣。さらに、登場人物たちが、人生の意味を問い直すという横軸を、きっちり組み込んでいる点がクーンツらしさです。

ときに人生はドラゴンの涙のごとき苦きもの、しかしドラゴンの涙が苦いか甘いか、それはその人の舌しだい

これが、タイトルに込められた本作品のテーマでしょう。

破綻を見せずに荒唐無稽な話を組み立てていく技は、さすがはベストセラー作家です。ただ、サミーとジャネット親子が、”チクタクマン”に追われる理由が判然としなかったり、彼らが何ら活躍せずにラストを迎えるのには不満が残ります。ハリーが、コニーを超常現象的事件に巻き込むための物言いも説得力を欠いていて、読んでいる方が恥ずかしさすら感じてしまうし。まぁ、多少の事はスルーするというのが、クーンツを楽しむコツかもしれないですね。

(注)読了したのは新潮文庫の翻訳版『ドラゴン・ティアーズ』で、 書影は原著のものを載せています 。

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