不死身の悪意に立ち向かう人々を描いたスーパーナチュラルな物語です。B級SF映画の趣ですが、登場人物たちが人生の意味を問い直すという横軸をきっちり組み込んでいるのがクーンツらしいですね。
【本の感想】ディーン・クーンツ『ヴェロシティ』
ディーン・クーンツ(Dean Koontz )『ヴェロシティ』(Velocity)(2005年)は、”いつもの”クーンツとは違った味わいの作品です。
バーテンダーのビリー・ワイルズは、愛車のワイパーに挟まれたメモを見付けます。そこには、”メモを警察に届ければ美人の教師を、届けなければ慈善事業にいそしむばあさんを殺す”と書かれていました。その日から、ビリーは見知らぬ人物から、理不尽な選択を強いられることになります・・・
自分は、『汚辱のゲーム』以降のクーンツの著作は読んでいないのですが、ホラーのクーンツと言えば、正義は勝つ、愛は勝つで、マンネリだけれど予定調和的な結末が心地良い作品ばかりの印象です。
しかしながら、本作品は、かなり不安定な気分にさせられます。畳み掛けるように酷い目に合う主人公ビリーが、いくら読み進めてもそこから抜け出せる気がしないのです。暴力的なシーンもそこそこあって(これがまた痛い!)、どうも、いつものクーンツじゃない・・・
ビリーが、もっと悪い状態になるのでは?、とハラハラさせられるし、そうなるにつれ、このゲームの仕掛け人に対して憎悪の感情が搔き立てられていきます。追い詰められたビリーが、”パラノイアという孤独”を作り上げるに至っては、一緒にブルーな気分にまっしぐら。それだけ感情移入できるのは、面白いということと同義です。う~ん、でも、気持ちが荒む・・・
犯人が判明する件は、おやおや?と、多少トーンダウンしてしまうのですが、ラストは、ビリーのこれからや、昏睡状態の恋人バーバラ、周囲との関係に余韻を残す良い締めくくり方でしょう。引用されているT.S.エリオットの言葉が美しくて、落ち込んだテンションが盛り返すのですよ。
最近のクーンツの他の作品を読んでみようかなぁ、という気にさせる一冊(上下巻で二冊か)でした。
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