群像劇でありながら、ひとつの物語ではありません。主役が存在しないのです。それがストーリーを語らせるのを困難にしています。雑多な登場人物たちは、何かに傷つき、何かにとらわれています。彼らが都市そのものの…
【本の感想】古川日出男『ハル、ハル、ハル』
二〇〇五年十一月から僕は完全に新しい階梯に入った。
『ハル、ハル、ハル』に添えられた古川日出男のコトバです。作品を時系列で読んでいるわけではないので、ピンとはこないのだけれど、収録作の短い紹介文を読むと分かった気にはなります。
著者の作品は、思考の断片をポン、ポンと連射しながら、物語が糊付けされているような印象があります。読み進めるとポップな疾走感を感じるのですが、すっと入ってこないと押し付けがましさや独りよがりに陥る危うさがあるように思います。
本作品集に収録されている「ハル、ハル、ハル」、「スローモーション」、「8ドックス」は、どれもやり切れない怒りを内包した暗い物語です。しかし、独特な文体が不思議な高揚感をもたらしてくれもするのです。
ネガティブなポップさ。
つらつらと乗せられていると、突然の酷い現実に足元を掬われます。この違和感こそ、本作品集の魅力なのだと思います。
「ハル、ハル、ハル」は、偶然に寄り集まった三人の”ハル”のロード・ノベルです。鬱屈した三人が形成した即席家族の辿り着く先は ・・・
「スローモーション」、「8ドックス」は、あらすじを書いてしまうと、それだけで面白味を無くしてしまいそうではありますね。いずれの作品も突然の悪意にハッとすることでしょう。自分が、三作品を読んで根っこのところに感じるのは”歪み”です。その”歪み”は、著者の新しい階梯の産物なのでしょうか?遡って読んでいくしかありますまい。
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