【本の感想】佐藤友哉『灰色のダイエットコカコーラ』

佐藤友哉『灰色のダイエットコカコーラ』

佐藤友哉『灰色のダイエットコカコーラ』は、北海道の田舎に住む青年の魂の叫びを綴った連作短編集です。

主人公は、一廉の者になろうと足掻くものの、何者にもなれない、ただの「肉のカタマリ」19歳。グロテスクで残酷で陰々滅々とした物語です。中上健次『灰色のコカコーラ』のオマージュでしょうか。

■灰色のダイエットコーラ
”僕”は、地元三流高校卒のフリーター。「希望も絶望も一緒くたに、ただのっぺりと」生きています。そんな”僕”は子供の頃から、気に食わない人間をあらゆる意味で殺した(63人!)覇王の祖父から「肉のカタマリじゃなく、普通の人間として生きよ」と訓示を与えられています。

親友のミナミ君は、神戸少年Aに嫉妬し、火柱となって17歳の時、自殺しました。”僕”は完璧な虚無の中で二十歳までに何者かになろうと決意します。

北海道出身の著者ですから、どこか自叙伝な部分もあるのでしょう。青春の咆哮が、グロテスクな悲壮感を漂わしている点で、他の青春小説とは一線を画しています。

■赤色のモスコミュール
13歳の頃の”僕”。ミナミ君、モヨコ先輩、スギハラ先輩と「会合」をしています。モヨコ先輩は曖昧が嫌いな分類病、スギハラ先輩は女装趣味、そしてミナミ君は「肉のカタマリ」を惨殺すべく計画書を作成しています。

ある日、モヨコ先輩が彼氏ができたと報告します。モヨコ先輩に振られたスギハラ先輩は、自身の男を排除するため、ミナミ君に性器を切り落とさせるのでした・・・

ミナミ君の計画書は、圧殺、爆殺、刺殺、撲殺、毒殺・・・の文字を死んだアリをセロハンテープで貼り付けて書いたという気色の悪さです。さらに、スギハラ先輩の切り離した性器が、それを握りしめたミナミ君の手の中で射精をするシーンに至っては、怖気を震ってしまいます。

■黒色のポカリスエット
6歳の頃の”僕”。祖父の建設会社 社員ハネダの息子ケンイチが誘拐されました。身代金の2,000万円は祖父が用意することに。しかし、誘拐犯は、ムラオカ組に行って手段は問わず2,000万円を3,000万円にするよう要求します。ムラオカ組に乗り込んだ祖父、ハネダ、”僕”。3,000万にする方法は、”僕”と組長のロシアンルーレットによる賭けです・・・

覇王である祖父の乱暴狼藉シーンは、大迫力です。結局、誘拐犯は誰?よりも、覇王直系として、世界に対峙しようとする現在の決意へのつながりに焦点が当たっています。

■虹色のダイエットコカコーラ
”僕”は、男たちに乱暴されかけている小学生の頃の同級生 ハサミちゃんを救出し、行動を供にします。10歳のがん患者ユカとの出会い、ハサミちゃんの妊娠、そしてハサミちゃんとの別離を経て、”僕”は、覇王としての生き方に疑問を持ち始めるのでした。ユカと同居しながら、叔父の会社で肉体労働で生活費を稼ぐ日々を送ります・・・

子供が生まれ、お父さんマシーンと化すのを忌避していた”僕”。ユカの父、兄ミチオとの出会い、ユカの死、ハサミちゃんとの再会を経て21歳の”僕”は・・・。ほらほら、破天荒な生き方を目指しても、概ね行き着くところは小市民です。

覇王というとピンときませんが、特別な自分を信じていた青年が、現実を知りちんまり収まるお話ですね。

がんばって働いて、家族を路頭に迷わせないようにしよう。お父さんマシーンになろう。小市民の道を、歩んで行きます。僕は今年、二十一歳になる。あはは。

あはは・・・

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