【本の感想】古川日出男『LOVE』

古川日出男『LOVE』

2006年 第19回 三島由紀夫賞受賞作。

古川日出男『LOVE』は、なんとも難しい小説です。

難解というわではなくて、どういう内容の本かを説明するのが難しいのです。著者自身による後記を読むと、「四七○枚の、全体でひとつのショート・ストーリー」なのだそうです。

収録されている「ハート/ハーツ」「ブルー/ブルース」「ワード/ワーズ」「キャッター/キャッターズ」は、独立した中編のようであっても、全く関連性がないわけではありません。登場人物がクロスオーバするのですが、かと言って、彼らが深く関与してひとつの物語を形成しているようにも思えません。そもそも、それぞれの物語性が希薄なので、全編を通して何が語られているかを説明するのが困難なのです。

オビには、「都市とそこで生きるものたちの喪失と再生を鮮やかにきりとった青春群像小説」とあります。しかし、自分には喪失も再生も感じ取ることができませんでした。

雑多な登場人物たちは、何かに傷つき、何かに執着し、何かにとらわれています。彼らが、都市という空間の中で、都市そのものに生命を与えているようには思えます。

本作品は、前述の通り、群像劇でありながら、ひとつの物語ではありません。それぞれが、都市のある断面を切り取ったときの、シーンを形成しているに過ぎないのです。関係性を紐解くならば、また別の物語が存在するように思えます。

都市というのは表層的であるがゆえに、都市なのだと言えないでしょうか。著者は、あえて登場人物たちの関係を深く掘り下げていないのかもしれません。都市を描くのに、人の関わりの深さは必要ないのです。あるシーンには、必要な最低限の関係性があれば良いのですから。

それでも、本作品は、登場人物たちによって、都市の顔が明らかになっていきます。著者の『ベルカ、吠えないのか?』は、明確な主役が存在しない物語でした。本作品も主役は存在しません。それが一層、ストーリーを語らせるのを困難にしています。

タイトルのLOVEは何を意味するのでしょうか。そして、この長い長いショートストーリーは、神の視座から都市に暮らす人々を描いているのでしょうか。深読みは苦手ですが、そうせざるを得ない作品です。

本作品には、キャッターズなる猫を数える人々が登場します。都市に暮らす猫たちを数えて競い合っているのです。なんとも奇矯な集団ですが、絵空事とは言い切れないものが、東京という大都市にはあるんですよねぇ。

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