群像劇でありながら、ひとつの物語ではありません。主役が存在しないのです。それがストーリーを語らせるのを困難にしています。雑多な登場人物たちは、何かに傷つき、何かにとらわれています。彼らが都市そのものの…
【本の感想】古川日出男『MUSIC』
古川日出男『MUSIC』は、『LOVE』の延長線上にある作品で、四人と一匹が織りなす群像劇です。
著者による文庫の後記には、
全部の物語の続編になるような器が、この『MUSIC』にはそなわっているんだよと、本当は自負を示したいのかもしれない
と、あります。なるほど~・・・混乱・・・
本作品は、『LOVE』と同様、個々の物語は良いとして、全体として何が語られているかを説明するのが困難です。文庫の裏表紙に「猫と青春と音楽が奏でる二都物語は、時空間をも超越し、小説の奇跡がここに結実する」とあります。随分、上手いことを言うなぁ、と思うものの、自分の感性が鈍いからなのか、それほどに心騒めくことはありませんでした。
登場人物は、鴉を狩る孤高の戦闘猫スタバ、猫と共鳴するスキンヘッドの少年ユウタこと田渕佑多(13)、俊足の少女シュガーこと佐藤美余(13)、男女二つの精神を宿す北川和身(和美)(24)、奇矯な天才アーティストJ1(34)。ユウタ、シュガー、カズヤ、カナシ―は『LOVE』に引き続き登場です。『LOVE』を読んでいた方が、有難味はあるでしょう。
スタバと鴉の「鳥ねこ戦争」から、佑多、美余、J1、和身・和美を巻き込みつつ物語は拡散していきます(スタバの戦闘シーンは芸術的!)。それぞれの視点から、畳み掛けるような文章で語られるそれぞれの世界観。文章から音楽が紡ぎ出され、世界は連鎖していきます。
物語は、スタバと佑多の出会い、スタバを介しての佑多と美余の邂逅、そして佑多とJ1の闘いへと進み、クライマックスの舞台は、東京から京都へと移ります。著者が何を意図しているのか分からないまま、疾走感に身を委ね一緒にゴールしてしまったようです。細かな意味を求めるのはナンセンスなのでしょう。やはり、自分にワクワクがないのは、細かい事に拘泥し著者のMUSIC的文学に乗り切れなったからなのかもしれません。
う~ん、しかし、和身・和美の存在は物語の中でどういう役割を担っていたのか・・・。本作品には、神話的なモチーフがあるのやら・・・。記憶に留めて発見の機会を待つしかなさそうです。
- その他の古川日出男 作品の感想は関連記事をご覧下さい。