【本の感想】古川日出男『ルート350』

古川日出男『ルート350』

古川日出男『ルート350』は、あぁ、まさに古川日出男だな、という短編集です。

畳み掛けるような語り口、突然始まるウソ話を現実にお織り込んでいく展開が特徴的な本作品集。読了直後はハテナ???となりますが、後からジワジワと言葉にできない感情が溢れます。著者の作品が合わない読者は一定数いるでしょうが、ハマれば再読したくなるような中毒性を持っているのは確かです。

幸福な家庭のただならぬ出来事「お前のことは忘れていないよバッハ」、幽体離脱した高校生が訪れた三人のクラスメート「ストリートライター、ストリートダンサー、ストリートファイター」が、マイベストです。というか、自分には、その他の作品はあらすじすら上手く語れません。敢えて一言で表すなら、

レプリカの日本、あの「夢の王国」でのa boyとa girl、そしてThe Mouse、それぞれのひと時「カノン」、離婚休暇中に出会った死んだふりをする少女ナカムラ「飲み物はいるかい」、作曲家バードマンのワカケホンセイインコ救済「物語卵」、都有地でのレイヴと暴動「一九九一年、埋め立て地がお台場になる前」、夏期講習キャンプ中の少年たちの戦闘「メロウ」、佐渡行きカーフェリーでの告白「ルート350」、・・・かなぁ。

■お前のことは忘れていないよバッハ
36歳女子のハムスターの思い出は、二十年以上も前のお話し。作り話しの前置きで絵に描いたような幸せが、めちゃくちゃになった時を語ります。

シーエと呼ばれる私、三軒並んだ家の右隣は一つ下のハナ、左隣りは一つ上のマユ。ある日、私の父がハナの母親と駆け落ちしてしまいます。そして、ハナの父はマユの母とハナの家へ、私の母はマユの家へ・・・。そんな最中、行方不明になっていたハムスターのバッハをひょっこりと姿を現します。私、マユ、ハナは、私の家に一軒の保護区を作ろうと決めるのでした。

涙なし(?)では聞けない、トンデモ話しです。これは、インパクト大ですわ!

■ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター
ICUから幽体離脱した15歳の”僕”は、お猿、ガーリー、エロ王に吸い寄せられます。それぞれに「顕現」する”僕”。

お猿は美女で性格はビーストのライター、ガーリーはレオタードのバレエダンサー、エロ王は自主トレシャドーに励むファイター。三人の見詰める視線の先にある幽霊アパートを取り壊すと、彼らの視線が交差します。

共闘のメッセージは、著者のその他の作品でも受け取ることができますね。

本短編集から、共通のものを上澄みとして掬い取ろうとしても上手くいきません。こういう時は、考えるんじゃない、感じるんだ、でかたずけてしまおう。

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