群像劇でありながら、ひとつの物語ではありません。主役が存在しないのです。それがストーリーを語らせるのを困難にしています。雑多な登場人物たちは、何かに傷つき、何かにとらわれています。彼らが都市そのものの…
【本の感想】古川日出男『僕たちは歩かない』
自分が作家にハマるのは、プロットなり、文体なり、人生観なりに惹かれ、”らしさ”を追い求めたくなるからです。古川日出男もそういう作家のひとり。物語が枝葉をつけて大きく拡散していくような、言語表現の豊饒さに魅せられるのです。
『僕たちは歩かない』は、結論から言ってしまうと、どうにもしっくりきません。古川日出男作品として、つまらない、が正直なところです。
山手線から降車して、偶然、26時間制の東京へ足を踏み入れてしまった、シェフ”未満”の男女。僕、カバヤマ、マツシマ、テラワキ、クロサワ、キシタニ、タチバナ、アサクラ…らは、そこで見つけたオープン・キッチン風のダイニングで料理をつくり始めます。
現実世界では出会うことのなかった彼らの集う場所が、現実から2時間ずれた異世界の東京です。都市に息づくものに、ちょっとした不思議な感覚を持ち込んでリアルを作り上げるのが著者の作品(のはず)。
ところが、どうも本作品は勝手が違います。ファンタジー色が強いのです(挿絵いるのかな?)。
僕たちは、異世界の東京で知り合った食通の画家のために、「前菜とデザートしかないクリスマス」と銘打ったクリスマス・ディナーをふるまいます。お話としてはとてもロマンチック。ここから広がりを見せて・・・とは、本作品はいきません。
ほどなくして、仲間の一人ホリミナが、事故死してしまいます。僕たちは、冥界へ彼女を訪ねるべく、その方法について画家から教えを請うことになります。
厳格な冥界到達ルール従って、ホリミナの元へ向かう僕たち。ひとり、またひとりとルールを踏み外し脱落していくのでした。そして・・・
本作品は、26時間制の東京というワンアイディアから作り上げた印象が強いですね。冥界への道行きがとって付けたかのよう。冥界といえばギリシャ神話のオルフェイスの悲劇ですが、そういう物語性も欠如しています。深読みをすると(そもそも、深読みさせるタイプの作家ではないと思うのです)、モラトリアムな生き方を止め未来に目を向けよ!、というメッセージでしょうか。違うなぁ・・・
文体は失顔症の青年が主役のロードノベル『サマー・バケーションEP』と似ています。しかしながら、本作品は同様の味わいがないんですよねぇ。
お気に入りの作家だけに、辛口になってしまいました。
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