【本の感想】辻村深月『ツナグ』

辻村深月『ツナグ』

2010年 第32回 吉川英治文学新人賞受賞作。

辻村深月『ツナグ』は、生者と死者が相見えるひとときを描いた連作短編集です。生者からの依頼を受けて死者との面会をコーディネートするものがツナグ。本作品集は、ツナグ見習い(?)の男子高校生 歩美が使者の任を担います。

生者の会うことができる死者は一生に一人、一度だけ。死者が会えるの生者も一人、一度だけ。死者と生者の邂逅の物語はありがちですが、こういう制約がつくと違った様相を呈します。

ざっくりと本作品集のプロットを見聞きする限りにおいては、お涙ちょうだい的な内容を想像しました。夫婦、恋人、親子と、愛しい人々が、束の間の再会に歓喜する麗しいのファンタジーか・・・。しかし、この自分の安易な予想は、良い方に裏切られます。確かに、死者と生者、最初で最後のひとときの触れ合いにはぐっとはきます。しかしながら、本作品集は、キレイ事だけでは終わってはいないのです。物語にちょっとしたリアルな残酷さを求めてしまう自分としては、まさにココがツボ。忘れ得ぬ物語となりました。

収録されているそれぞれの短編は、死者に面会を希望する人々を中心に展開します。ツナグは、死者と生者の直接の対話に介入しませんし、その様子を知ることもありません。そういう意味では、ツナグは狂言回しの役割です。ただし、本作品集では、並行して逡巡する歩美の姿が語られます。ツナグの能力の特異性を上手く効かせており、少年の成長物語としての側面も見せてくれるのです。

■アイドルの心得
人間関係に疲れうつ病を発症した平瀬愛美と突然死したアイドルの水城サヲリの面会を描いた作品です。いちファンのリクエストにこたえ、そして希望を与える究極のアイドル魂があらわされています。

■長男の心得
工務店を経営する畠田靖彦と2年前に他界した母ツルの面会を描いた作品です。傲慢な靖彦のホンネに触れてホロリときます。親子愛には弱いのですよ・・・。

■親友の心得
女子高生 嵐美砂と事故死した親友の御園奈津の面会を描いた作品です。親友がゆえの嫉妬が事故の遠因と悩む美沙、そしてツナグのコーディネイトで奈津への謝罪のチャンスがきて・・・。これはホロ苦ですね。

■待ち人の心得
会社員 土谷功一とプロポーズ後失踪して7年の年月が流れた恋人 日向キラリの面会を描いた作品です。身分を偽ったまま死んでしまったキラリの真実とは。 愛しさとさみしさの余韻が印象的です。

■死者の心得
祖母アイ子からツナグの後継者に指名された歩美。前4話が歩美の視点から語られ、それぞれの顛末からツナグの使命に疑問を持つ姿が描かれます。歩美は、はたしてツナグを引き継ぐのか・・・。両親の死の真相などを織り交ぜ、歩美の成長が清々しさを感じさせます。ラストを飾るにふさわしい作品ですね。そして続きは、『ツナグ 想い人の心得』へ。

さて、自分が死んだ後、自分に会ってくれるのは誰でしょう。そう考えると、ちと恐ろしくはありますか。

本作品が原作の、2012年公開 松坂桃李、樹木希林 出演 映画『ツナグ』はこちら。

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