【本の感想】辻村深月『光待つ場所へ』

辻村深月『光待つ場所へ』

辻村深月『光待つ場所へ』は、次の一歩へ踏み出す前の人々が主役の短編集です。

「冷たい校舎の時は止まる」「凍りのくじら」「ぼくのメジャースプーン」「スロウハイツの神様」からのスピンオフ(だとか)。先にそちらを読んだ方が良いのでしょうが、単独の作品としても読むことはできます。ただし、思い入れは、少なくなるのかな・・・

収録されてる4作品は、中学生からオトナ女子まで、年齢は様々ですが、他人との距離の取り方が不器用なキャラが共通しています。どこか読み手に重なるところがあるんでしょうね。少年少女の友情ものに弱い自分としては「樹氷の街」がオススメです。

■しあわせのこみち
清水あやめは、自身の描く絵に内心、絶対的な自信を持っています。大学の「造形表現」の授業で、抜きん出た作品として教授が見せたのは、田辺颯也が制作したフィルムでした。初めての圧倒的な敗北を味わうあやめ。そんな あやめに颯也は、屈託なく接します・・・

人とは違う自身の感性に陶酔していた あやめは、絵に専心することができません。ところが、田辺颯也は、易々とあやめの思い上がりを打ちのめしてしまうのです。自身が天才でないことを思い知らされたあやめは、田辺颯也を会話を重ねるうちに本気であること、の意味に気付かされます。

自分は、あやめのキャラクターがどうも好きになれません。自分の感性が凡人極まりないから、鼻持ちならないように思えるんですね。出来過ぎなラストにも抵抗感が・・・。なお、あやめは、『冷たい校舎の時は止まる』の登場人物。田辺颯也は、鷹野博嗣の友人という設定です。

■アスファルト
大学の卒業旅行でドイツを旅する藤本昭彦は、一緒に来るはずだった恋人のことに思いを馳せます。友達が多く、女の子にモテ、頭がいいと言われる昭彦。しかし、八方美人と評されていることを知り、ショックを受けてしまたことから、彼女ともしっくりいかなくなってしまったのです・・・

著者の作品によく登場する、賢くて眉目秀麗な青年は、『冷たい校舎の時は止まる』の登場人物です。こちらを読んでいないと、あの子とかその子とかこの子が、判然としません。誰でも通る多感なひと時を切り取った作品ですが、藤井昭彦に思い入れがないと面白味はないでしょう。

■チハラトーコの物語
29歳 モデルの千原冬子は、来る仕事が自身の意にそぐわないレベルまで落ちた、がけっぷちの状態です。しかし、何をしたいのか、自分の欲望の名前をはっきりさせることがありません。冬子は、嘘つきを自認しています。揺ぐことのない冬子でしたが、いつしか「虚構」と「現実」のバランス崩れていることに気付きます。何かを掴もうとしている脚本家の赤羽環、デザイナーのリディアに対し呪詛の言葉が口をついて出るのでした・・・

本作品は、自身を振り返って悔い改めるのような、ありきたりの結末ではありません。語られる嘘つきとしてブレなかった過去。そして現在、冬子は、迷いを捨て、自身の生き方を美学として確固たるものにします。ラストの一行は、清々しくさえあるのです。千原冬子と赤羽環は、『スロウハイツの神様』の登場人物です。

■樹氷の街
学内の合唱コンクールを前に、倉田梢の伴奏のピアノは上達を見せません。クラスの不協和音を感じ取る指揮者の天木は、同級生の椿が天才という松永郁也に難易度の高い自由曲「樹氷の街」の伴奏を頼むことにします・・・

『凍りのくじら』の松永郁也の中学時代が描かれています。ちょっとした仲違いから友情が強くなるという王道青春ものです。こういうお子たちの頑張る姿にはめっきり弱くなってしまいました。本短編の中では一番のおススメ。多恵さん、芦沢理帆子も登場するS・F(すごく・ファン向け)の作品です。

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