【本の感想】筒井康隆『男たちのかいた絵』

筒井康隆『男たちのかいた絵』

筒井康隆作品に初めて出会ったのは、高校一年生の頃。以来、大学を卒業するまですっかり著者の毒気に当てられたのでした。思い起こせば、一番最初に読み終えたのが短編集『男たちのかいた絵』(1974年)。本作品集は、性的倒錯者であるヤクザたちが主役です。歪んだ性癖を持つ輩たちが、ジャズのスタンダードナンバーのせて、グロテスクであり、物悲しくもある暴力の宴を催します。

本作品集を読んで、同性愛もSMも獣姦も知らない無垢な少年の心が、土足で踏みにじられたように感じました。そして、すっかりリビドーに目覚めてしまったようです。

親に隠れて著者の作品を読むのが、自分の密やかな楽しみ。今から思えば、実に可愛らしいものです。

■夜も昼も
沢半組の縞田は、暇さえあれば自慰行為に耽っています。敵対している鳴門会の捕虜 乾を脅し、死の瞬間を夢想して興奮の絶頂を迎える始末。一方、沢半組と鳴門会の対立は激化し、ついに鳴門会は殴り込みに打って出るのでした・・・

本作品を読んだ高校生の頃は、自慰行為の生々しい描写に居心地が悪くなりました。カウパー線液という語を知ったのは本作品。冒頭から衝撃的です。

■恋とは何でしょう
巨漢の種と小男 岩屋は恋人同士。組の麻薬取り引きで、種を相手方の高柳の息子と交換することなりました。手の内に入った種を、高柳は凌辱し・・・

本作品も、ガテン系の激しい同性愛シーンに怖気奮ってしまいました。クライマックスは死屍累々のぶっ飛びぶりです。

■星屑
十徳組の伝三は、ダイヤを隠して逃亡中に鎌藤組の襲撃にあい、捕まってしまいます。拷問を受ける伝三。伝三は、散々にいたぶられた挙句、射精してしまうのでした・・・

マゾヒズムをテーマにした作品です、高校生の頃は、ここからレーオポルト・フォン・ザッハー=マーゾッホの名を知るようになります。

■嘘は罪
加波山組の誠は、妄言癖があります。敵対する焙烙組二人を痛め付けたなどど平気で嘯くのです。ある日、誠は、兄貴分の萩原が木之原を殺したとの報を知り、自分の仕業であると吹聴して・・・

オチは想定内で、本作品の中では面白味がない箸休め的な作品です。他が刺激的過ぎるのか・・・

■アイス・クリーム
双葉組の勇一と兄貴分 樋口は、2百万を回収するために杉浦邸を訪問します。約束が違うと難色を示す杉浦に、勇一の鉄拳が飛んで・・・

幼い頃、父親から虐待を受けていた勇一。父親を思い出し、暴力が止まりません。金を回収し、樋口と勇一が帰り道に食べるアイスクリームは、懐かしい味がします。

■あなたと夜と音楽と
新開興行 八郎は、スイング・バンドの和泉を、三芸興行の襲撃に備え護衛しています。音楽に造詣が深い八郎。高級スナックの帰り道、八郎は三芸興行のに襲われて・・・

刺された八郎が、断末魔に繰り返したこととは。本作品は、異常な性癖が見当たりません。

■二人でお茶を
鶴丸杉夫と松夫は二重人格です。臆病な杉夫と暴力的な松夫。杉夫と松夫は趣味趣向が正反対。松夫は杉夫を疎ましく思っています。ある日、チンピラに絡まれた松夫は、杉夫を脅かすつもりで、刺されてしまうのでした・・・

ヤクザの幹部の松夫、そうじゃない方の杉夫。敵対する二つの人格がもたらした悲劇です。

■素敵なあなた
斑猫組の襲撃を企てた正木たち。時間になってもメンバーの進が来ません。進は、お産の付き添いをしていると言います。実は、進の彼女のは、べスという名の犬だったのです。

安産で四ツ子を産んだべス。本作品は、オチが効いています。本短編集のラストを飾るに相応しい毒々しい作品です。

本作品が原作の、1996年 公開 豊川悦司、高橋惠子 出演 映画『男たちのかいた絵』はこちら。

1996年 公開 豊川悦司、高橋惠子 出演 映画『男たちのかいた絵』

「二人でお茶を」を映画化しており、他の作品は匂わせ程度でしょうか(そもそも他の作品は映像に適さないのですが)。鶴丸杉夫と松夫の二重人格者を豊川悦司が演じています。全く別人のように演じ分けるトヨエツの芸達者ぶりは、一見の価値あり!

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