【本の感想】マーティン・ミラー『ミルクから逃げろ!』

マーティン・ミラー『ミルクから逃げろ!』

スピードの売人アルビーは、全英牛乳販売促進委員会に雇われた殺し屋につけ狙われています。自身の牛乳アレルギーを告発したところ、図らずも牛乳の不買運動に発展してしまったため、委員会の怒りをかってしまったのです。被害妄想狂のアルビーは、いつ現れるかわからない殺し屋に戦々恐々としながも右往左往するばかり ・・・

マーティン・ミラー(Martin Millar)『ミルクから逃げろ!』(Milk, Sulphate, and Alby Starvation)(1987年)は、80年代 ロンドンを舞台に繰り広げられるポップな青春小説です。社会の底辺を彷徨う主人公 アルビーを中心に、クセのあるキャラクターたちが、物語を盛り上げていきます。

女殺し屋ジェーン、レズビアンカップル フランとジュリー、ビデオゲームの達人 チェンとウ-、古の王冠発掘に情熱を燃やすウィング教授、霊能力を持つ看護婦 ミュリエル ・・・

ストーリーの核となるのはアルビー V.S. 殺し屋の顛末ではあるものの、それとは無関係にいくつかの出来事が展開します。時制が前後するのと、サイドストーリーがどこに向かっているのかわからないため、多少、混乱してしまうかもしれません。

本作品は、群像劇なのですが、キャラクター間の接点が希薄であり、結末が一つに収斂しません。群像劇ならではの、ラストの一気呵成のスッキリ感を期待するとハズレてしまいます。

英国の今(当時)を切り取ったと解釈すべきなのでしょう(その辺の事情に詳しくないため楽しさ半減しているのかも)。90年代の底辺感漂う青春小説と言えば、アーヴィン・ウェルシュ『トレインスポッティング 』ですが、本作品の方はとってもライトです。バカ笑いはできませんが、ニヤリとするシーンは随所に散りばめられています。なかでもアルビーとジェーンのファースト・コンタクトは、コントを見ているようです。

本作品は、じっくり味わうというより、サクサク ニヤリがぴったりの一冊です。