【本の感想】花村萬月『ゴッド・ブレイス物語』

花村萬月『ゴッド・ブレイス物語』

花村満月作品は、性や暴力の内に垣間見える不器用な男女の愛が、印象的です。萬月節と言っても良いでしょう。『ゴッド・ブレイス物語』は、著者のデビュー作で、過激さはまだまだ鳴りを潜めてはいるものの、もどかしいぐらいの愛が漂っています。

ライブバンド”ゴッド・ブレイス”を率いるシンガー 朝子は、芸能プロダクションの社長の依頼を受け、メンバーのヨシタケ、タツミ、カワサキ(そしてカワサキの息子健)とともに京都へ向います。

仕事は、超高級クラブでのライブ。ギャラは最高で、長期の仕事です。ところが、現地について見ると、欲しいのはバンドだけだ告げられます。ギャラは既に前払いされていたため、クラブ側の要求を飲まざるを得ません。騙された朝子は、契約期間中、ホステスとして働き、バンド・メンバーはクラブのシンガーのバック・バンドとして演奏をするはめになります・・・

芸能プロダクション社長の原田のやさぐれ感、クラブのオーナ タカクラの粗暴な中にある優しさは、以降の作品の男性キャラクターに通低するものがあります。

ただ働きも同然で、自分たちの音楽すら演奏できない”ゴッド・ブレイス”。トラブルが続き、メンバー間に軋轢が生じ始めます。本作品は、様々な問題を乗り越えて、バンドとして成長していく姿が描かれていきます。軋轢からの強い結束は、音楽ものの王道ではあるのですが、個性豊かな男女(と男男!)の恋愛がストーリーを盛り上げてくれます。

クライマックスの雨の中のライブシーンは、鳥肌ものです。朝子の歌声が聞こえてくるような錯覚を、覚えるでしょう。著者の音楽に対するアツイ思いが、伝わってきます。何といっても、主役の朝子が魅力的なんだよなぁ。

文庫本に収録の「タチカワベース・ドラッグスター」は、米軍の立川基地で、ドラック・レースに情熱を傾ける青年を描いた作品です。日本の中の異国感がやけに新鮮に感じられます。

  • その他の花村萬月 作品の感想は関連記事をご覧下さい