【本の管理】伊坂幸太郎『ラッシュライフ』

伊坂幸太郎『ラッシュライフ』

画商と新進の女流画家、窃盗犯、新興宗教の幹部と信者、サッカー選手とその不倫相手の心理カウンセラー、求職中の中年男。

伊坂幸太郎『ラッシュライフ』は、彼らが織りなす群像劇です。

本作品は、登場人物たちの、希望と絶望、信義と裏切り、愛と憎悪がごった煮になっていて、まさに豊潤な人生を味わうことができます。謎解きというより、人生観を著した書として読むべきであり、再読に十分に耐え得る作品です。

本作品の展開は、登場人物たちの間柄や行為の結果が、他の登場人物へとリレーのように繋がっていき、読み進めていくうちにストーリーに厚みがでてくる仕掛けがなされています。ただし、登場人物それぞれのターンの時制が前後してしまうので、一読したたけでは何かを見落としているような気はします。再読すると、違った発見があるのかもしれません。

死体を解体したり、そのバラバラ死体がくっついて歩きはじめたりと、グロテスクでかつ不可思議な出来事が挿入されていますが、ちっともおぞましくないのが伊坂幸太郎流です。人間関係しかり、対象へ殊更に踏み込むことのない冷めた距離感がこう感じさせるのでしょうか。

登場人物の殆どは、人生に切羽詰まっています。過去からの呪縛だったり、ツキがなかったり、欲望に駆られたりしているのですが、全うに生きている人には、行く先に明るい兆しを見せてくれます。

「イッツオールライト」

なかでも、窃盗犯とその自宅へ入り込んだ新米窃盗犯の、まるで洋画を見ているようなクールなやり取りが楽しいですね。他の作品にちょいちょい顔を出す黒澤の口を借りて、伊坂テツガクが開陳されます。

画商と画家のターンが少ないなど、登場人物によってストーリーへの関わりが薄いのと、ラストが一気呵成の爽快感とはいかなかったのが残念です。贅沢を言えば、ですけれど。

2009年 公開 堺雅人、寺島しのぶ、柄本佑、板尾創路 出演 映画『ラッシュライフ』

本作品が原作の、2009年 公開 堺雅人、寺島しのぶ、柄本佑、板尾創路 出演 映画『ラッシュライフ』はこちら。東京芸術大学が配給したんですね。

ジョン・コルトレーン『Lush Life』

ちなみに、ラッシュライフは、ジャズのスタンダードナンバーですね。ジョン・コルトレーン『Lush Life』はこちら。

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