【本の感想】伊坂幸太郎『グラスホッパー』

伊坂幸太郎『グラスホッパー』

伊坂幸太郎『グラスホッパー』は、亡き妻の復讐に執念を燃やす元教師と、三人の殺し屋が織りなす著者お得意(?)の群像劇です。

妻を殺された元教師 鈴木。鈴木は、復讐を成し遂げるべく、犯人寺原の父親が経営する会社に契約社員として働きながら、チャンスをうかがっていました。ところが、寺原は、鈴木の面前で押し屋と呼ばれる殺し屋に、事故にみせかけて殺害されてしまうのです。鈴木は、会社から理不尽な脅迫を受け、押し屋の行方を追うよう迫られて ・・・

本作品には、轢死に見せかける押し屋「槿(あさがお)」、己の意志として自殺を誘発する「鯨」、ナイフ使いの「蝉」の三人の殺し屋が登場します。鈴木の「槿」追跡行を中心に、殺し屋たちの思惑が三つ巴になって、物語は進んでいきます。「蝉」のキャラクターはよくあるキレたやつですが、ナイーブで哲学者然とした「鯨」、黒澤を思い起こさせる泰然自若な「槿」は、伊坂ワールドならではでしょう。

図らずも「槿」家 長男の家庭教師となってしまった鈴木。この成り行きは、著者の巧さを感じさせます。鈴木は、徐々に「槿」一家に心を寄せるようになってしまいます。一方では、迫りくる「槿」包囲網に、身分を隠した鈴木は、焦燥を募らせるのでした。

魅力的な「槿」そして、その妻子は何者だろうと興味津々です。復讐劇の顛末より、こちらの方が気になります。なので、ここが受入れられるかどうかで、本作品の評価が決まってしまいそうですね。伊坂作品らしいと言えばらしいのですが、この点、自分にはスッキリといきませんでした。読者が、正統派のサスペンスやミステリを求めると外してしまうでしょう。「鯨」もスーパーナチュラルな存在ですし。

テンポよく読み進められるし、物語そのものに爽快感はあります。映像が浮かんでくるので、映画向きの作品なのでしょう。

なお、本作品は「殺し屋シリーズ」として、『マリアビートル』『AX』へとつながります。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

井田ヒロト 絵 漫画『グラスホッパー』

本作品が原作の、井田ヒロト 絵 漫画『グラスホッパー』はこちら。

2015年公開 生田斗真、浅野忠信、山田涼介 出演 映画『グラスホッパー』

本作品が原作の、2015年公開 生田斗真、浅野忠信、山田涼介 出演 映画『グラスホッパー』はこちら。

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