【本の感想】伊坂幸太郎『フーガはユーガ』

伊坂幸太郎『フーガはユーガ』

伊坂幸太郎『フーガはユーガ』は、著者ならではのトリッキーな作品です。ハテナ?となるタイトルに惹かれ、単行本を買うほどには伊坂作品の熱心な読者ではありませんが、思わず手に取ってしまいました。

本作品は、テレビ局のディレクター高杉が、常盤優我へのインタビューを行うシーンから幕を開けます。偶然撮られた、優我が、似て非なる人物へと瞬時に入れ替わった動画から、高杉は、この謎に迫ろうとするのです。優我の重い口から語られたのは、双子の弟 風我との子供の頃からのエピソードでした・・・

二時間差で生まれた風我と優我は、幼い頃から父親の暴力にさらされていました。不幸な環境に育った二人は、誕生日の日に、二時間毎に入れ替わってしまうようになります。どこで、どんなことをしていても、二人の体は瞬時に互いの存在していた場所へ移動していまいます。風我(フーガ)は優我(ユーガ)に。優我は風我に。

本作品のここだけをとると、誰もが、子供の頃に夢想するようなシチュエーションです。これは、面白い話しを作れるのだろうか、とやや不安な出だし。そこは流石、伊坂幸太郎。きっちりと読ませてくれます。

運動が得意な風我、そして勉強が得意な優我。二人は、それぞれの特技(?)を活かし、誕生日の瞬間移動で、ささやかな実験を繰り返します。中学生の頃、いじめられているワタボコリを助け出すトリックは、痛快さを感じます。なるほど、こういう使い方ができるのね!

風我と優我の物語は、過去を振り返るかたちで続きます。小玉と風我の出会いと不幸な生活からの救出劇、優我とハルコ、ハルタ親子の親交と彼らが絡んだ因縁の父親との再会で、瞬間移動を使ったエピソードが描かれます。本作品の登場人物である、風我と優我、ワタボコリ、小玉、ハルコとハルタは皆、幸せから少し離れたところにいます。全編を通して明るさを感じないのは、痛みを抱えている人々の物語であるからなのでしょう。もっとも、著者の作品は、そこが魅力でもあるのですが。

この頃、優我の周りで小学生の行方不明事件が発生していました。冒頭のインタビューのシーンへと戻り、いよいよ風我と優我の物語は最後の盛り上がりを見せてくれます。風我と優我が忘れられない一人の少女の死。全ての点が線でつながっていきます。ハラハラドキドキのジェットコースターが動き出すのです。冒頭からは想像しなかった大ピンチの到来!どうなる風我と優我!おっと、長じたワタボコリが、いい味出してくれるじゃないですか!

途中まで、著者らしい展開ではないなと思いましたが、ここまでくると伊坂幸太郎節が鳴り響きます。自分の本作品の評価としては辛目ですが、タイトルに惹かれたほどの大傑作とはいきませんでした。それにしても、苦い締めくくり方をしちゃったなぁ・・・

なお、本作品では、あの案山子のことが少しだけ言及されています。

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