【本の感想】伊坂幸太郎『死神の精度』

伊坂幸太郎『死神の精度』

2004年 第57回日本推理作家協会賞短編部門受賞作。
2005年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門 第5位。

伊坂幸太郎『死神の精度』は、ミュージックが好きで渋滞が嫌いな雨男、否、雨死神が、人の生死を裁定する物語を集めた短編集です。

カバー裏のあらすじからは、人の生に寄り添う善意といった、ありがちな展開を予想してしまいますが、そんな甘ったるさはありません。千葉と名乗る死神は至ってクールに生と死を見つめていくのです。千葉は、現世に現れ、対象となる人物と行動を供にして、死すべきと判断したら、すみやかにあの世へと誘います。

好きでもないことを必死にやる。仕事とはそういうものだ。

So Cool!

千葉が自身の仕事についての好き嫌いを口にすることはありませんが、勤め人の自分としては納得せざるを得ない一言です。

本作品集の中では、恋愛小説風の「恋愛で死神」がお気に入りです。甘やかな恋愛の結末に、死という苦い後味を残します。死はその人の善・悪や幸・不幸に関係なく訪れます。救いという希望を排除したために、他の”死神もの”とは違う景色を見せてくれます。

本作品集には著者の独特の、衒学的な言い回しはあまり見られません。終わり間際まで淡々と読み進めてしまうかもしれませんね。シチュエーションは違えど、どの話もパターンは似ていますから。こうなると読み終えるまで惰性なんですが、力が抜けまま最終話「死神対老女」に至り、すっかり目が覚めることになります。

時間や空間を超越している死神の特性が効いてくるのです。回りくどい説明をせずとも、読者に感銘を与えることができる著者の技を堪能しました。

俺はよく思うんだけれど、動物とは異なる、人間独自のつらいことの一つに、幻滅、があるじゃないか。

これは、また、ごもっとも。本作品集では、その”つらいこと”を味わうことはありませんでした。

本作品が原作となる、2008年公開の金城武、小西真奈美出演の映画『Sweet Rain 死神の精度』はこちら。Sweet Rainのタイトルで甘ったるい印象がついちゃいましたね。

2008年公開の金城武主演 映画『Sweet Rain 死神の精度』

原作では非人間的な千葉でしたが、映画の方は、多少なりとも人間味があります。映像という制約ゆえに、最終話の驚きは、原作の方が勝ってしまいました。

原作にない相棒の黒犬は、死神の心の動きを対話で表現するために登場させたのでしょうか。

本作品を読みながら、Travisの名曲「Why does it always rain on me?」の歌詞が浮かびました。

Why does it always rain on me?
Is it because I lied when I was seventeen?
Why does it always rain on me?
Even when the sun is shining
I can’t avoid the lightning

” Why does it always rain on me?” song by Travis
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