【本の感想】伊坂幸太郎『砂漠』

伊坂幸太郎『砂漠』

伊坂幸太郎『砂漠』は、大学生活を始めた北村を中心に、北村を取り巻く鳥井、東堂、西嶋、南ら新入生の交流が描かれた作品です。5人にとって象徴的な出来事が、章を分けて、四季毎につづられます。

遊び人の鳥井、とびっきりの美女 東堂、奇矯ともいえる思想の持ち主 西嶋、超能力娘 南。そして、主人公の北村は、どこにでもいる男子大学生です。

ある日、鳥井が、名字の頭(つまり東西南北)にちなんで、 北村ら4人をマージャンに誘います。この時をきっかけに、彼らは友情を育んでいくのです。

何かがなければ深くは分かり合えることがなかった仲間たち。賭けボーリングに巻き込まれたり、強盗事件に遭遇したり、超能力者 V.S. 科学者のバトルに関わったりする度に、絆を強くしていきます。

5人は、表面上ベタベタしているわけではありません。けれど、心の底ではお互いの事を気遣っているのがひしひしと伝わってきます。

物語の途中、鳥井は心身ともに大きな傷を負ってしまいます。ここで残りの4人が労わりを見せるシーンは、それぞれの個性が活きていて微笑ましくなります。鳥井の笑顔が戻った時は、キュンとしてしまうでしょう。

北村のカノジョ鳩麦さん、通り魔のプレジデントマン、ホスト礼一とホスト純、幹事の莞爾ら、脇役たちも気のきいた立ち回りを見せてくれます。

自分のお気に入りは、西嶋が、東堂のアルバイトをしているキャバクラを訪ねて行くエピソード。恋愛には不器用な二人の行く末は、果たして!

本作品を読んでいると、自分の学生時代を思い出さざるを得ません。自分は、残念ながらこういう友情を築くことはできませんでした。「砂漠」のまま過ごしてしまったことになりますね。読了時には、ノスタルジックな感慨に、ジェラシーが入り交じった複雑な気持ちにさせられます。あぁ、羨ましい。もっとも、強盗事件も発生しなかったし、超能力を使う女子学生も周りにはいなかったのだけれど。

北村の思いの通り、5人の友情が永遠に続くことを祈ります。

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