【本の感想】花村萬月『皆月』

花村萬月『皆月』

1997年 第19回 吉川英治新人賞受賞作。

みんな、月でした。がまんの限界です。さようなら

諏訪徳雄の妻 沙夜子は、こんな書置きを残して、突然、出奔してしまいます。徳雄が爪に火を灯すようにして貯めた1千万と共に ・・・

花村萬月『皆月』は、しょぼくれた40男 徳雄が、新しい自分を発見していく物語です。中年版ビルドゥングスロマンというところでしょうか。

ヤクザもんの義弟アキラ、ソープ嬢の由美との触れ合いを通して、除々に変わっていく徳雄。そしてまた、彼らの絆が、アキラと由美を変えていきます。

沙夜子を追って、徳雄、アキラ、由美の三人は、旅へ出ます。本作品は、定番の自己再生ものですが、ロードノベルでもあるのです。

クライマックスは、徳雄と沙夜子が再会するシーンです。読み進めながら、わくわくしてしまいます。果たして、冒頭のメッセ―ジには、何が込められていたのでしょう。ラストにかけて、これ以上はないという納得の展開をみせてくれます。

本作品には、仄かに胸がアツくなるシーンがあちこちに用意されています。本音での人と人とのぶつかり合いが心に響くのです。過剰に思える性描写も、こう考えると必然性はあるのかもしれません。もっとも、それ程いやらしい感じはしないのですが。

人物造形も会話のテンポも、すっかり自分のツボにハマりました。何より、徳雄の冴えない感に共感してしまうのです。

太陽と月。

ふむふむ。自分自身を例えるなら、やっぱり月ということになるでしょうね。自分で輝かなくとも、徳雄のように、優しく包み込むような月でありたいと、本作品を読み進めながら思うに至りました。

1999年公開 奥田瑛二、北村一輝、吉本多香美 出演 映画『皆月』はこちら。

1999年公開 奥田瑛二、北村一輝、吉本多香美 出演 映画『皆月』

原作に忠実に撮られています。諏訪役 奥田瑛二の萎びた感じが良いですね。ウルトラマンティガのレナ隊員がソープ嬢!と、 由美役 吉本多香美の体当たり(?)演技に、良い子はショックを受けるかもしれません。アキラ役 北村一輝は、原作の知的なキレっぷりまでには今一歩及ばないかな。

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