【本の感想】ブライアン・ガーフィールド『ホップスコッチ』

ブライアン・ガーフィールド『ホップスコッチ』(原著)

1976年 エドガー賞 長編賞受賞作。

おっさんが極まってくると、勤め人としては概ね、”賞味期限切れ”の烙印を押されます。如何に少年の瞳を持っていようが、思春期の閃きを垣間見せようが、年齢的「そろそろですね」と店じまいを告げられます。

ブライアン・ガーフィールド(Brian Garfield)『ホップスコッチ』(Hopscotch)は、引退し老境に差し掛かった男が、世界を相手に一泡吹かせようと試みます。 プロットだけを読むと、”賞味期限切れ”男たちに夢と勇気を与える物語のようですね。

マイルズ・ケンディングは、アメリカ情報局の諜報員として第一線で活躍していましたが、頭に銃弾を受けたため閑職へ回されたあげく、53歳で引退を余儀なくされました。退屈な日々を過ごすケンディングへ、KGBのミハイル・ヤスコフが接近し、誘いをかけます。怪しげな動きを察知したアメリカ情報局は、ケンディングに警告を発しますが、これがケンディングの闘志に火をつけてしまいます。今もって衰えない能力の高さを、証明しようとするのです。

これは、他者に対してだけではないでしょう。自分自身への挑戦であるように受け止めました。この心意気、うんうん、よ~く分かります。

ケンディングがケンカを吹っ掛けた相手は、アメリカ情報局だけではありません。知り得た14ヵ国に及ぶ国家的シークレットを、地下出版で定期的に暴露する作戦であるため、各国が色めき立ってしまうのです。ケンディングの宿敵は、かつての弟子、アメリカ情報局海外工作員ジョー・カッター。カッターとパートナーの殺し屋(ハチェット・マン)レナード・ロスは、ケンディング抹殺に動き始めます。

暴露ネタを執筆しながら各国を転々とするケンディング。足跡を追われるのは覚悟の上、どれほど至近距離にこさせるかがゲームの見所と嘯きます。CIAのみならず、KGB、MI6と包囲網が広がり、ピンチが続くわけですが、そもそもケンディングは、非暴力の人であるので知力を使って切り抜けていくのでした。まさに、本作品の見所はココですね。欧米のエスピオナージにありがちの唐突なラブラブはご愛敬です。

クライマックスは、ケンディング最大のピンチが訪れます(この想定外のピンチの招き方は気に入っています)。どうする、どうなるケンディング ・・・  う~ん、痛快さが足りない ・・・ 落としどころとしては、そうだよね、と思いつつも、もうひと華あっても良いんじゃないでしょうか。と、感情移入してしまいました。

本作品が原作の、1980年 公開 ウォルター・マッソー、グレンダ・ジャクソン 出演 映画『ホップスコッチ/或るエリート・スパイの反乱』はこちら。

1980年 公開 ウォルター・マッソー、グレンダ・ジャクソン 出演 映画『ホップスコッチ/或るエリート・スパイの反乱』

そういえば、楳図かずお『アゲイン』(まことちゃんが登場する少年マンガね)は、隠居したじいさんが高校生として復活するお話しでした。小学生の頃読んだマンガに、今更ながら、感無量になったりして ・・・

楳図かずお『アゲイン』

(注)読了したのはハヤカワ文庫の翻訳版『ホップスコッチ』で、 書影は原著のものを載せています 。