【本の感想】筒井康隆『魚籃観音記』

筒井康隆『魚籃観音記』

早く大人になりたかった中学生の頃。

酒を飲みたいのでもタバコを吸いたいのでもなく、腹一杯ハンバーガを食いたかったのと、エロ本を読みたかったからです。

子供らに、当時は如何にエロ本を買ためにどんなに苦労したかを熱弁すると、ふふふん、と鼻で笑われてしまいます。今の中学生はネットでちょちょいとエロ動画を閲覧できますからね。

筒井康隆『魚籃観音記』のタイトル作は、まさにエロ本です。

冒頭に

本篇黙読中は、BGMに「Misty」などを用い、頁を繙くのに用いぬ方の手で静かに手淫行わば、結末間近にして大いなる歓喜法悦に導かれることなし。ゆめゆめ疑うことなかれ。  作者

とあり、孫悟空と観音様の天界で行われる(上品な表現をすると)濡れ場ひたすら書きつづっていきます。この行為を、神仏たちが窃視するシーンがあったりして、宗教観が日本と違う国でならば、大変な問題になっているでしょう。冒涜的ともいえる毒のある作品が、著者の持ち味ではあります。もっとも、エロ表現の多彩さに驚き、笑ってしまうばかりで、著者の言う歓喜法悦の域には程遠いのだけれど。

本短編集は、著者が断筆解除後の、70歳に手が届く頃のものですが、まだまだパワーは衰えていませんね。その他の作品は、以下の通りです。

■市街戦
突然、勃発した市街戦。テレビドラマの撮影は、そんな最中でも行われます。キャストが銃弾に倒れていく中、監督は演技指導を続けるのです。「日常的に、日常的に」と・・・

■馬
社長から突然、馬をやると言われたおれ。貰い受けに行った厩舎にいたのは、どう見ても女でした・・・

■作中の死
船田章太郎は、自身が新聞の連載小説の登場人物に似ていることに気づきます。近くに住む作家が、章太郎をモデルにしたのです。章太郎は、登場人物に感情移入し続け、ついには同じ行動を取るようなって・・・

■ラトラス
突然変異で知性を持ち巨大した鼠のぼく。ぼくは種の保存のため、人間を襲い、食料にします。妹とたどり着いたスーパーマーケットを、ぼくは、二人の安住の地と決めたのですが・・・

■分裂病による建築の諸相
建築関係者の中に、分裂病患者が存在した場合の建築物や、建築方法についての記述。いいのかね、これ・・・

■建物の横の路地には
映画館の、グランドホテルの、職業安定所の・・・横の路地に入っていくと、そこには・・・

■虚に棲む人
おれが、カフェテラスで声をかけた彼女。三ヶ月ほど親しくつきあった後、突然、彼女からの連絡がつかなくなりました。次に彼女を見たのは、友人の作家の短編小説の中で・・・

■ジャズ犬たち
ソニー、五郎、シュガーの三匹の犬たちがやってきます。そして、奏でる音楽は・・・

■谷間の豪族
突然妻が実家に戻ることになりました。作家のおれは、都会を離れ、妻の一族の住む谷間へ。そこは、一族が、大きな家で一緒に暮らす豪族の村でした・・・

余談。

大人って家族ができる歳になると、ハンバーガーはそんなに食べたくないし、エロ本はますます見れなくなるんだよなぁ・・・

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