【本の感想】フィリップ・K・ディック『ヴァリス』

本の感想 フィリップ・K・ディック『ヴァリス』

一度、読み始めた本は、何があっても最後まで。

といきたいところですが、いくつか途中で挫折したものがあります。挫折は聞こえが悪いので、中断としておきましょうか。

フィリップ・K・ディック(Philip K Dick)『ヴァリス』(Valis)は、中断本です。

読み始めたのが、創元推理文庫で刊行された当時の1990年だから相当の時を経てしまいました。誤って捨ててしまったので、買いなおしして、なお積んでおいた本です。この度、時間をかけてようやく読了とあいなりました。

女友達の自殺をきっかけに、狂気へまっしぐらとなったホースラヴァー・ファット=ディック。彼が、ピンク色の光線の照射によって、神からの啓示を受け、秘密教義を著していく過程がつづられていきます。

あらすじを紹介することすら困難な、ディックの精神世界が開陳された作品です。神学、哲学、心理学、歴史学、神話が、ごだまぜになって、捻り出された教義は、難解この上ありません。ディックの博覧強記ぶりに圧倒されるのみです。

訳者である大瀧啓裕のAdversariaを読むと(理解しているわけではありません)、ますます自分の知識の貧しさを思い知らされます。

一読しただけでは、撫でさすったぐらいでしかないでしょう。言わんとするところの上澄みをペロっと舐めただけです。かといって、熟読し、ディックの精神世界にのめり込むのも恐ろしい。なにせ宇宙の創世まで解き明かしてしまう勢いなのですから(巻末の秘密経典書を見よ!)。

ファットは、二つの異なった時代に生きる自分自身を幻視し、ついにその神秘体験と符号する映画『ヴァリス』に出会います ・・・

あらすじなど、語っても意味はないのでしょう。ディックの精神の旅を眺めていくだけ精一杯です。本作品は、全てを理解しようとすると、苦痛でしかありません。自分の経験と重なり合うような、わずかな部分を感じ取るだけでよいのかもしれませんね。少なくとも、自分は、ディックの諸作品に見られる現実の崩壊感の根源に触れたような気がします。

とりあえず、達成感だけは味わいました。そして、今更、三部作であることに気づいて、ビビッてもいるのです。