【本の感想】筒井康隆『家族場面』

筒井康隆『家族場面』

筒井康隆『家族場面』は、1993年~1994年発表の作品が収録された短編集です。発表年からすると、断筆宣言頃になるでしょうか(著者が断筆していたのをご存知?)。

理由は分かりませんが、文庫版は、単行本から「天狗の落とし文」を落として文庫化しています(「天狗の落とし文」は使用権フリーを謳い文句にしたショートショート作品集のタイトルです)。

収録作は、際立って毒々しくもないし、実験的でもないので、著者の作品の中では比較的読み易いものばかりです。反面、深く記憶に残るような作品には出会えませんでした。ここは、ちょっと残念。

■九月の渇き
渇水により水が失われ、糞尿が問題が激化してく都市生活者の様子が描かれています。著者お得意(?)のウ○コ話しです。読んでいるうちにググっと変なものがこみ上げてきそうになりながらも、笑えてくるのです。自分も小さい頃から今に至るまで、ウ〇コ話は好きなものですから。

■天の一角
死刑執行を遺族の手によって行うという”死刑執行希望者”制度実行の一幕です。一部始終を劇中劇のように、ギャラリーが覗き見しているように表現しています。死刑廃止への反論かと思いきや、どうもそうではないようです。

■猿のことゆえご勘弁
あらすじを書くと興を削ぐので、猿芝居のドタバタとだけ紹介しておきます。まぁ、正直な話、面白くもなんともないのだけれど。

■大官公庁時代
産業の停滞で、国民の六割が官公庁に勤めているという時代が描かれています。それぞれが大したことをしていない割に、ちょっとしたミスが官僚機構に重大な影響を及ぼしてしまう。これは、ブラックだなぁ。現在でも官僚の云々がニュースになるのだから、真実を衝いているのです。

■十二市場オデッセイ
卒業論文を作成するため、商店街を縦断する学生が描かれています。日常と微妙にずれた不思議感覚が楽しい作品です。

■妻の惑星
宇宙探険隊の目の前に現れた異星の住人は、なんとおれの妻!崩壊する現実感が、下世話なところに溶け込んでいく様が面白いのです。

■家族場面
気がついたらおれは石川五右衛門だった!次から次へと夢現の世界を彷徨いながら、それを自覚しシチュエーションにあった芝居を繰り広げる家族が描かれています。軽快で小気味さを感じさせる作品です。

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