名作『死者の書』につづく第二長編です。ダークファンタジーの要素がなくても、小説としてなかなかよくできた作品です。読み進めていくと、突然、日常が不協和音を奏ではじめます。現実そのものが崩壊してしまうよう…
【本の感想】ジョナサン・キャロル『犬博物館の外で』
1992年 英国幻想文学大賞受賞作。
ジョナサン・キャロル(Jonathan Carrol)『犬博物館の外で』(Outside the Dog Museum)(1991年)は、ダークファンタジー<<月の骨>>シリーズで、『月の骨』、『炎の眠り』、『空に浮かぶ子供』に続く第4弾です。
前作までのキャラクターが顔を出したり、事物に言及したりはしますが、ストーリーの繋がりはなく、独立した物語として読むことができます。それどころか、本作品まで読み通してみても、コレといった共通するテーマが見えてこないのです。それぞれの作品の主人公が、所謂、ギョーカイ周辺の人々であることぐらいでしょうか。
ハリー・ラドクリフは、イカれて精神病院へ入院したことのある天才建築家です。今は亡きシャーマンのヴェナスクに導かれ、何とか正気を取り戻しました。そんなハリーへ、中東はサルー共和国のサルタン(国王) モハメッド・イドリス・ガラダーニから、犬博物館の建設を依頼されます。
全くやる気の起きないハリーでしたが、ロス・アンジェルスの大地震からモハメッドと恋人ファニーと共に辛くも生還したこと、一方もう一人の恋人クレアが片腕を失ってしまったことをきっかけに、サルー行き決意します。
ここからは、ぐっとファンタジー色が強くなります。幻想譚と言った方が近いでしょう。細部まで理解しようとすると徒労に終わるので、ハリーが何を創ろうとしているのか、に注目すべきです。
サルー行きの途中、ウォーカー・イースタヒリングと妻マリス、息子のニコラスに会うハリー。ニコラスはヴェナスクが身をやつした姿であり、ハリーに啓示を与えます。ここは、『炎の眠り』とリンクしていて、ニコラスの存在そのものに謎が仕掛けられているのです(本筋ではないのですがね)。
サルタンの兄クトゥルーの反乱によりモハメッドが死亡し、政情不安定となったサルー。モハメッドの第一王子ハッサンが、ハリーを犬博物館の建築予定地へと案内します。ファニーといい仲になり、ハリーへ敵意を向けるハッサン。ハリーは、報酬としてクレアの腕を戻す条件を突き付けます。実は、ハッサンは、魔法が使えるのでした・・・
クライマックスにかけては、混乱気味の展開です。<兎帽子>なるものが登場し程なくして死んだり、ハリーがニコラスに会いに行くとまだマリスの腹の中だったり、ホラー映画「深夜」(『空に浮かぶ子供』のフィルが創った映画)を観ているうちにハリーが様々な言語を解していることに気付いたりと、文脈からの解釈が難しくなります。
例えば、ハリーが多言語を解することが、サルーからオーストリアの地に替えて創造するあの!建築物と大きく関わっているのは分かります。顛末を含めて旧約聖書の創世記をなぞっているようですが、宗教的な部分に理解が及んでいないため、上手く当てはめることができません。だって、日本人だもの・・・
本作品は、随分、大それたものを創ったものよ、で納得するのがよろしいかと思います。シリーズ第4弾にして遂に飽きがきたか・・・
(注)読了したのは創元推理文庫の翻訳版『犬博物館の外で』で、 書影は原著のものを載せています 。
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