【本の感想】ジョナサン・キャロル『沈黙のあと』

ジョナサン・キャロル『沈黙のあと』(原著)

ジョナサン・キャロル(Jonathan Carroll)『沈黙のあと』(After Silence)(1992年)は、月の骨』『炎の眠り』『空に浮かぶ子供』犬博物館の外で』に続く、<<月の骨>>シリーズの第5弾です。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

前作までは、ファンタジーと言われれば、なるほどとなるストーリーでしたが、本作品は、ファンタジーではありません。ちらりと再登場するキャラクターが、ファンタジーの残り香を漂わせるぐらいです(カレン・ジェイムス、ハリー・ラドクリフが名前だけ登場)。何か起きそうと期待しつつラストまで読み進め、最後の一撃を見ないまま読了してしまいました。

<<月の骨>>シリーズは、次作『天使の牙から』で完結ですが、本作品は、これを読むことを躊躇わせます。

ぼくは息子の頭に銃を突きつけている

という衝撃的な冒頭の一文は、否応なしに読者の興味を搔き立てられます。このシーンに至るまでの経緯が、本作品の流れです。<<月の骨>>がダーク・ファンタジーのシリーズですから、最初の1ページで尋常ならざる物語を思い描くでしょう。

漫画家マックス・フィッシャーが、出会ったリリー・アローンとリンカン親子。リリーは、レストランで働くシングルマザーです。この出会いから暫くは、マックスとリリー、リンカンの交流が描かれます。当然のことながら、マックスとリリーは、様々な出来事を通して惹かれ合うようになるのですが、この過程は、ファンタジー色はなく、全くの通俗小説です。ただ、リリーの、何をおいても人を助けざるを得ない性格の持ち主という設定は、先々の波乱の予感を感じさせるでしょうか。

マックスとリリー親子は、仲睦まじく一緒に暮らし始めます。

ある日、リンカンが野球の試合で怪我をし、マックスは病院へ緊急入院させます。この報を聞き、異常なほど激高するリリー。そんなリリーの姿を見て、マックスは、これまでの様々なリリーの言動の積み重ねから不信感を覚え始めます。そして、リリーの過去を私立探偵に探るよう依頼するのでした・・・

ここで、リリーが、大きな秘密を抱えていることが分かります。しかし、マックスにはリリーが大切な存在であることには変わりありません。リリーの告白を聞いて、マックスは結婚を決めます。ここに至るもファンタジー色は、皆無です。あれれ、これは、すったもんだの挙句、男女の絆が強固となる恋愛小説?

時は流れ、17歳となったリンカン。反抗期の真っ只中で、薬にも手を出しています。どうやら、リリーの秘密を知ってしまったようです。ここから、クライマックスは「積み木くずし」状態へ。徐々にリンカンの暴挙はエスカレートして・・・ついに・・・。米国の少年のグレ方は半端なしで、途中までの可愛いリンカン坊やは何処へやら。結局、本作品は家族小説であったのでしょうか。後味は頗る悪いので、ダークさだけは印象として残ります。でも、やっぱり、フツーの小説なんですよねぇ。

(注)読了したのは創元推理文庫の翻訳版『沈黙のあと』で、 書影は原著のものを載せています 。

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