【本の感想】ジョナサン・キャロル『炎の眠り』

ジョナサン・キャロル『炎の眠り』

ジョナサン・キャロル(Jonathan Carroll)『炎の眠り』(Sleeping in Flame)は、『月の骨』に続く<<月の骨シリーズ>>の第2弾です。

ハイファンタジーではないのだけれど、普通小説の中に、幻想小説を混入させたような作品です。いわゆるマジックリアリズムでしょうか。

本作品の前半は、主人公である脚本家兼俳優ウォーカーの日常です。親友のニコラスや、2番目の妻となるマリスとの日々が綴られていきます。ちょっとオシャレな映画を見ているような感覚です。しばらくは、ウィーンの風物の中で繰り広げられるウォーカーと、チャーミングなマリスの恋物語にお付き合い。

ストーリーが転換するのは、マリスがウォーカーにそっくりな肖像を墓場で見付けてから。その人物は、30年前に父親に殺害されていたのです。

ウォーカーとマリスに不吉な影が忍び寄ります。ニコラスの突然の死や、ウォーカーの夢の中の別の人生。白日夢のように現れる海龍。

後半からは、(剣はないけれど)魔法の世界です。ウォーカーのメンターとなるシャーマンの登場。その死。ウォーカーの生と死にまつわる謎とは何か・・・

と続きます。

本作品は、グリム童話ルンペルシュティルツヘンをモチーフにしています。「俺の名前をいってみろ!」というあのお話ね(北斗の拳じゃありませんよ)。自分は、童話に題材をとる作品には些か食傷気味だったりするのですが、本作品は別格。ハッピーエンドに一撃をくらわす最後の一文が秀逸なのです。

全体としてとっ散らかった感がありますが、ダーク・ファンタジーというものを堪能できる作品です。

  • その他のジョナサン・キャロル 作品の感想は関連記事をご覧下さい。