【本の感想】ジョナサン・キャロル『空に浮かぶ子供』

ジョナサン・キャロル『空に浮かぶ子供』(原著)

ジョナサン・キャロル(Jonathan Carroll)『空に浮かぶ子供』(A Child Across The Sky)は、『月の骨』、『炎の眠り』に続く、ファンタジー<<月の骨>>シリーズの第3弾です。(リンクをクリックいただくと感想のページに移動します

主人公は、『月の骨』で、愛する女性の夢の世界へ誘われた元映画監督のウェーバー・グレストン(オスカーをとった名監督の設定です)。現在は、癌患者を集めた演劇集団を主催しています。

ある日、ウェーバーに、親友フィル・ストイホーンの、ライフル自殺の報が届きます。ホラー監督としての名声を得へて、新作の完成が間近の時でした。

ウェーバーに残されたのは、フィルのビデオ・テープ。そこには、ウェーバーの母親が飛行機事故で亡くなる寸前の映像が・・・ というダークな出だしです。

フィルは、ビデオ・メッセージでウェーバーに新作『深夜は殺す』の撮り直しを依頼します。どうやらフィルは”知ってはいけない人間と宇宙の隅っこ”に触れてしまったようなのです。ウェーバーは、フィルの意志を継ぐことを決意するのでした。

フィルがしたためた読むたびにストーリーが追加される小説「フィルヘッド氏」、実体化するウェーバーの鴉の刺青、フィルのイマジナリーフレンドで死の天使ピンスリープ、あちこちで姿を目撃される死んだはずのフィルと、謎多き物語が展開します。特に、8歳の少女ピンスリープは、フィルの恋人サーシャを身籠り、サーシャはピンスリープを身籠っているという設定です。謎は謎(というか、不条理)として興味はそそられるのですが、その解は、観念的過すぎて面白さより小難しさが際立ってしまいました。

フィルの自殺の真相とは、如何なるものでしょうか。そして、ウェーバーは、フィルの願いを叶えることができるのでしょうか。

<<月の骨>>シリーズとしては、折り返し地点である本作品。これまでの登場人物たちがちらりと顔を見せますが、シリーズとしてどういう位置付けにあるのか、ここでは判然としません。シャーマンのヴェナスクと飼い豚のコニーなどは、魅力的なキャラクターなので、今後の関わりが気になるところではあります。 不条理なダークさは、前二作よりも増してはいるので、シリーズの続きを期待しましょう。

(注)読了したのは創元推理文庫の翻訳版『空に浮かぶ子供』で、 書影は原著のものを載せています 。

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