【本の感想】田坂広志『企画力 人間と組織を動かす力』

田坂広志『企画力 人間と組織を動かす力』

企画書を顧客の担当者に説明し、大いに盛り上がるものの、顧客の上位層からの評価が芳しくなく断念、といったケースは良くあります。担当者の反応から、期待に胸を膨らませていたのに、待ちに待った結果がこれかよ!と、計り知れない落胆におそわれます。担当者も言い難いからか、お断りの返事が待たされてしまのが常ですよねぇ・・・

また、同じ社内で企画を通す場合も、プレゼンで上司にけちょんけちょんにされ、見る目のない者に無駄な時間を使ってしまった・・・などと、拗ねてしまうこともあるでしょう。

こんな素晴らしい企画なんでよ?

一番、最初に浮かぶのは、このハテナです。でも、その企画は、誰が見ても、聞いても、本当に優れたものなのでしょうか?そもそも、企画とな何ぞや、という原点に、自戒を込めて立ち帰ってみる必要がありそうです。

田坂広志『企画力 人間と組織を動かす力』な、企画のなんたるか、をズバっと説いてくれます。著者は、様々な事業を立ち上げた実績の持ち主ですから、その辺の怪しいスタートアップとは説得力が違います(名前にやられているだけか)。

著者は、長々と文章を書き連ねることはせず、ポイントを抑えて端的に主張を展開していきます。企画とはこうあるべき、がそのままの形で書籍になったという印象を持ちました。短時間ですらっと読めるのも嬉しいところです。

企画とは、実行されて初めて、企画と呼ぶ

著者は、企画力は、「企画を立案する力」よりも、「企画を実現する力」であると言い切ります。「知ること」と「行うこと」を一つにする「知行合一」がプロフェッショナルの大切な心得と続けます。なるほど、企画を立案する力に焦点が行きがちですが、実行されなければただの夢物語です。実行のためには、人間や組織を動かさなければなりません。

では、どのように人間や組織を動かすのか。著者は、「物語」を語ることによって、とこの問いに答えます。企画力の真髄は「物語のアート」であり、プロフェッショナルは「企画書」によって「物語」を語るのだと言います。さらに著者は、「アート」とは「技術」(スキル、センス、テクニック、ノウハウなど)と「心得」(マインド、ハート、スピリット、パーソナリティなど)が結びついたものと定義します。随分前に一緒に仕事をしたあるコンサルタントの方が、企画書は芸術作品でなければならない、と話しておられました。本書では、そこまでのトンガリ方はしていませんが、意図するものは同じでしょう。「企画力」を磨くとは、「物語の技術」と「物語の心得」の両方の力量を身につけ、研鑽していくことなのです。

「最高の企画書」とは「最高の推理小説」である

著者は、こう続けて主張します。これは、企画書は、ページターナーであるべきだという意味であり、そのための必要な心得と技術を説いていきます。

企画書においては、企みを語れ
企みを、面白く、魅力的に語れ

これが心得です。この、面白く語れは、ハードルがとても高いですね。著者は、「生き様」が面白い人間でなければ、企みを面白く語ることができないと述べます。企画書は体を表すということでしょう。そんなに、「生き様」の面白い人間は、見かけませんからね・・・

「何を行うか」よりも、「なぜ行うか」を語れ

これは目からうろこです。著者は、企画書は「なぜ行うか」を語り、「何を行うか」は計画書であると述べます。こう言われてしまうと、自分の作成してきたものが、より計画書に近かったのでは、と思い始めます。「全般工程型」の能書きも(もって何々に資するの類)、「思考停止型」の能書きも(コスト削減等の大義名分の類)も、堂々と提案していたような・・・。本書のこのあたりで、自分の過去を振り返り、かなりのダメージを受けてしまいました。

著者は、企画書の表紙のタイトルが、勝負であると述べます。ここで「企み」が語られ、この「掴み」でページをめくりたくなるかが分かれ道。これまでも、自分は「掴み」の多くを失敗していたようです。著者は、表紙で「企み」から1ページ目で「ビジョン」(これから、何が起こるか)を語り、2ページ目で企みを翻訳して「構造化された目標」として語れ、と論を進めます。そして、3ページ目から「目標」を「戦略」へ、「戦略」を「戦術」へ、「戦術」を「行動計画」へと順を追って翻訳し語るとべし、と基本的な企画書の流れを説きます。著者の例示を見ると首肯せざるを得ませんが、これはまだ「知識」の段階です。「知恵」を会得しなければいけませんね。

著者は、読みやすい企画書について触れ、「自問自答」のスタイルを推奨しています。第一段階「目を引く」(アイ・キャッチ)、第二段階「興味を惹く」(マインド・キャッチ)、第三段階「視点を定める」(マインド・セット)、という流れが「最高の推理小説」になると述べます。自分は、ここまでで、お腹いっぱいですが、重要はポイントはまだあります。

企画書というものの隠れた役割は、「問題を提起すること」なのです

何かお手伝いすることはありませんか?が、稚拙なやり方というのは良く分かります。顧客自身が問題に気付いていない場合は、往々にしてありますから。問題意識をどう持つべきかを提案する企画書が、「最高の企画書」というわけです。

さらに著者は、企画書が「一人歩き」することについて警鐘を鳴らします。自立性を持たない企画書は「説明資料」であること、「説得力」を持たない企画書が「一人歩き」して顧客の上司に賛同を得られないこと、が例示されています。担当者間で盛り上がったのに何故?の理由がここにあります。著者は、この担当者間の意思疎通は、「企画書の力」ではなく「企画者の力」であると分析します。うむむ・・・耳が痛い・・・。著者は、顧客の担当者は「同志」であるべきとしています。なるほど、企画書出して後はよろしく!ではいけないのです。あの企画どうなりました?というフォローも、同志の立ち位置ではないですよね。著者は続けて、社内をどのように巻き込んでいくか、つまり「社内戦略」についても言及します。うむむ・・・さらに耳が痛い・・・・面倒くさがったり、拒絶したり、拗ねたりしてるだけでは「最高の企画書」を作り上げられないのです。

本書には、「企画の深み」、そして「企画の凄み」についても記述がなされています。読み進めると、顧客との心理戦など、「企画を実現する力」の有り様がよく分かるのです。自分が、なんちゃって企画書を量産していたことに今更気付き、反省することしきりです。・・・しかし・・・ホント、ハードルが、高いなぁ・・・