ネオ・ハードボイルド作家の一翼を担うリューインのデビュー作にして、知性派探偵アルバート・サムスンの初登場作です。地味な内容ですが、正義と打算の間で揺れ動く人間味溢れるサムスンの魅力を堪能できます。
【本の感想】マイクル・Z・リューイン『消えた女』
1986年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 第3位。
マイクル・Z・リューイン(Michael Z. Lewin)『消えた女』(Missing Woman)は、知性派探偵アルバート・サムスン シリーズの第5弾です。
アル中、ヤク中、モク中な主役ばかりのネオ・ハードボイルドにおいて、アルバート・サムスンはいたって真っ当な男です。へらず口をバンバン叩いて相手をやり込めたり、鼻につくような気の聞いたセリフも吐きません。拳銃が大嫌いで、暴力沙汰に自ら飛び込むような真似は以ての外。エロチックなシーンもなし・・・。
知性派探偵というより、草食系探偵の方がしっくりくるでしょう。
シリーズ第1弾の『A型の女』では、本当の父親を探して欲しいという少女の依頼に、すったもんだしながらも真摯に向きあうサムスンが素敵でした。本作品は、またまた人探しの依頼から物語が始まります。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)
アルバート・サムスンを訪ねてきた女 エリザベス・ステットラーは、連絡が取れなくなった友人 プリシラ・ビンの捜索を依頼します。二ヶ月前から夫の元を離れてしまったのです。
サムスンが聞き込みを始めると、ビリー・ボイドという女ったらしと逃げたことが判明します。夫のフランクは激高しているばかり。
プリシラの逃避行の不自然さに疑問を持ったサムスンでしたが、エリザベスはその結果を聞いて、捜査の打ち切りを告げるのでした。後ろ髪を引かれる思いのサムスン。しばらくして、ビリーの他殺死体が発見され、フランクは容疑者として拘留されてしまいます。ところで、プリシラはどこに?サムスンは、フランクの弁護士デヴィッド・ホーグの依頼で、再びプリシラの捜索を開始するのでした・・・
『A型の女』とは違って、今回は殺人事件が絡んだ人探しです。初登場のサムスンより気の利いたセリフが多いものの、やっぱりトンガっていません。心の中でブツブツつぶやいているだけ。拳銃をぶっぱなされては、ぶるぶる震えて悲鳴を上げます。
実にかっこ悪い。
でも、チキンな割には、最後まで頑張ってしまうのが良いのです。金欠極まりなくても探偵家業は、辞められません。サムスンの、ビシっと一本芯の通った男気に惚れてしまいます。第2弾から第4弾までを飛ばして読んでしまったのが、悔やまれます。
本作品でサムスンは、クセ者の登場人物たちに翻弄されてしまういます、中でも、著者のもう一人のシリーズキャラクター 失踪人課の刑事 リーロイ・パウダーとの絡みが面白ですね。
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