【本の感想】ロジャー・スミス『血のケープタウン』
ロジャー・スミス(Roger Smith)『血のケープタウン』(Mixed Blood)(2009年)は、南アフリカを舞台に、アメリカから逃亡した一家の悲劇を描いた作品です。
『はいつくばって慈悲を乞え』でも南アフリカの血生臭さに怖気をふるいましたが、本作品もえげつないほどに暴力に彩られています。まさに南ア・ノワールです。
物語は、二人のギャングがアメリカ人の邸宅に押し入るシーンから始まります。家主ジャック・バーンは、何気なしに強盗を働こうとしたリッキー・フォーチュン、フェリアド・アダムスを逆襲し、妊娠中の妻スーザン、息子マットの目の前で、惨殺してしまいます。実はバーンは、ギャンブルの借金を埋め合わせるため犯罪を犯し、一家でアメリカから逃亡してきたのでした。
身元が割れることを恐れるバーンは、死体を遺棄し隠蔽を図ろうとします。しかし、リッキーから金を巻き上げていた悪徳警官 ルディ・バーナード警部補は、バーンの行動に胡散臭さを感じ、執拗に過去を探り出そうとするのです。
この巨漢の醜悪なバーナードは、途轍もない極悪キャラです。それこそ虫けらを捻りつぶすが如く、何の感情もなく意にそぐわない者を殺戮していきます。例え、それが少年であっても。この悪の権化の如き敵役が、どうバーンを追い詰め、バーンがどうこれに対処していくかが興味の中心です。
物語は、元ギャングの夜警 ベニー・マングレル、正義の人ディザスター・ゾンディ特別捜査官を巻き込んで、盛り上がりを見せていきます。身辺が騒がしくなってきたバーンは、愛想を尽かされたスーザンへ、ラストチャンスとばかりに、ニュージーランドへの逃亡を持ち掛けます。しかし、スーザンはアメリカへの帰国を強く求めるのでした。
ディザスターに悪行の数々を暴かれ、尻に火が付いたバーナードは、マットを誘拐し、バーンへ身代金を要求します。バーンは、バーナードに恨みをもつベニーを従え現金受け渡し場所へ向かいます。バーンは、そしてマットはどうなる・・・と、大詰めのアクションシーンへ突入です。
本作品は、どいつもこいつも悪党ばかり、というノワール感はたっぷりです。とにかく暴力シーンが多く、クライマックスには死屍累々たる情景にも慣れてしまいます。ただ、ハラハラドキドキは希薄です。それは、バーナードが追われる身となってしまったからでしょう。緊張感を持続する工夫が、もうひとつ欲しいところです。うっぷんは、晴れるのですが。
ラストは、ノワールっぽさ満開です。暫く、尾を引いてしまいますねぇ。