【本の感想】阿部和重『無情の世界』

本の感想 阿部和重『無情の世界』

1999年 第21回 野間文芸新人賞受賞作。

阿部和重の初期の頃の作品は、とっても饒舌です。この饒舌さは、深さにくわえ、広がりがあるので、ストーリーを追うのを難しくしています。

『無情の世界』は、そんな初期作品の中でもわかりやすい短編集です。『インディヴィジュアル・プロジェクション』や、『アメリカの夜』、『ニッポニア・ニッポン』のようにアイデンティティーの問題といった明確なテーマを見出すことはできません。収録されている三作品に通底しているものを見つけるとするなら、鬱屈した暴力衝動の発露となるでしょうか(無理やりの解釈だけれども)。

■トライアングルズ
父親の不倫相手へ宛てた、小学六年生の少年の手紙という体裁の作品です。手紙には、彼女へ恋をした少年の家庭教師の行状がつづられていきます(彼女へ恋をしたがゆえに、家庭教師にもぐりこんだのです)。少年の、家庭教師への同情的な視線が、かえって家庭教師のストーカー行動を明らさまにしてしまいます。家庭教師のへ理屈とも言うべき饒舌さが少年というフィルターを通して可笑しみに変換されます。ラストの修羅場はなかなか衝撃的です。

■無情の世界
高校生が深夜の公園で見かけた露出マニアの女性。欲情をもよおし近寄ってみると、なんと、死体だった、というお話しです。高校生の内省的な世界に油断していたら、ちゃんととオチがついているではないですか!

■鏖
不倫関係を楽しむオオタツユキが、ファミレスで同席した中年男。男が見ていたテレビモニタには、不倫中の妻が写し出されていました。不甲斐ない男に、噛み付くオオタ。男はオオタに自身のテレビモニタを預けて、姿を消してしまいます。やがて、男が不倫をはたらく妻を間男を撲殺する姿がモニタに ・・・

これに、盗みで窮地に陥っているオオタとオオタの不倫相手とのゴタゴタが絡み合って、奇妙な物語が展開されます。錯綜していながらスピート感がありすっきりとまとまっていますね。本短編集ではいちばん読み応えがある作品です。

You can’t always get what you want
You can’t always get what you want
You can’t always get what you want
But if you try sometimes you just might find
You get what you need


「You Can’t Always Get What You Want」 song by The Rolling Stones  (日本語タイトル 「無情の世界」)
  • その他の阿部和重 作品の感想は関連記事をご覧ください。