深読みさえも拒絶してしまうような作品です。こんなの書きましたが、何か?と開き直っているような。書いていることは分かる。何を訴えているのかがよく分からない。物事はそんな見方もあるんですよと囁かれているよ…
【本の感想】阿部和重『Deluxe Edition でらっくすえでぃしょん』
阿部和重『Deluxe Edition でらっくすえでぃしょん』は、突然始まり、突然終わる、ストーリーを語り難い短編集です。
東日本大震災以降の作品がまとめられており、当時を思わせるものも収録されています。文庫本の裏表紙に「9.11から3.11に至る世界と対峙した12の小説集」とありますが、それ程高邁な意図は感じられません。
初期の頃よりは観念的な分かり難さはなくなっいて、収録されている作品の筋道は明快です。筒井康隆の実験的な作品とまではいかないものの、イイ感じに近づいている印象があります。はっとするような残酷さを孕んでいる、自分の好みの作品集です。ただ、ほぼ全編、楽曲のタイトルが付けられているは、ありがちで残念・・・
お気に入りの5作品をご紹介します。
■Just Like a Woman
41年間、真実の愛を求め続けていた男が出会ったのは、ピンクチラシで呼び寄せた女性。彼女は、男であった時の過去を語り始めます。それは、女どもを苦しめる男への闘いに目覚めるまでの壮絶な物語でした・・・
陰々滅々とした男が人生の転機を迎えるという爽やかな作品です。・・・爽やかかなぁ・・・
■Search and Destroy
団塊の世代を狩り立てる集団のメンバー宇都宮一三六。彼の父親 星夜は、襲撃者を捕らえる自警団の一員でした。ある日、一三六が仲間から呼び出された場所に向かうと、そこには警官の姿が・・・
年配者には耳が痛い若者たちのセリフにぞくりとします。ラストのヒネリが印象的な作品です。
■In a Large Room with No Light
盗賊団として被災地に入り込んだ日山昭伸は、仲間の美里剛洋から五億円の儲け話を聞かされます。埼玉で起きた強盗の隠し金がここ福島にあるようなのです。元締めに黙って回収を図ろうとする日山と美里でしたが、不始末をしでかし追われている崔哲生に聞かれて・・・
3.11直後の被災地を舞台とした、どいつもこいつも悪ばかりのノワールな作品。ラストもそれっぽくて好みです。
■Sunday Bloody Sunday
30回目のカップリングパーティに参加した男。目の前に着ぐるみを着、短機関銃を持った何者かが現れます。どうやら、これは余興ではないらしく・・・
ショート・ショートのキレのある作品。自分の好きなU2の名曲と内容がマッチしているので、ベストに上げました(それだけなんだけど)。
■The Nutcracker
都内に広く伝わる民話「十四回目のクリスマス・イブ」。その続編の収集を趣味とうるユザワは、ひょんなことからそれを知る14歳の少女 ユミコから教えを請う事になります。それは家出少女ユリが、クリスマス・イブに客をとって悲惨な目にあったというお話で・・・
これでもかいうぐらいに、痛くて酷くて残酷な作品です。らしくない都市伝説を創り上げ、それを伝承させる流れが巧です。
その他の楽曲(?)は、以下の通りです。
「Man in the Mirror」/「Geronimo-E,KIA」(本作品タイトルのみ楽曲名にあらず)/「Bitch」/「Life on Mars?」/「For Your Eyes Only」/「Family Affair」/「Ride on Time」
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