【本の感想】阿部和重『ニッポニアニッポン』

阿部和重『ニッポニアニッポン』

阿部和重『ニッポニアニッポン』は、 特別天然記念物トキをめぐる革命闘争の記録です 。

本作品の主人公 鴇谷春生(とうやはるお)は、自身の姓に含まれるトキへ並々ならぬ関心を抱いています。学校にもいかず、仕事もぜず、トキ(学名 ニッポニアニッポン)に関する様々な情報を調べ上げる日々を送っているのです。春生がたどり着いた想念の先は、トキの飼育、解放、密殺の三択。

同級生 本木桜をストーカーした挙句、故郷から追い出された春生は、なんら悪びれることもなく、親の仕送りで暮らしています。読み進めるうちに春生の人間性が伝わってくるのですが、なんとも苦い気分になります。春生の、ことごとく自己を正当化し、周囲のネガティヴな反応を一蹴する、歪んだプライドを感じてしまうのです。トキのように、自分は特別な存在であるという意識が、沸々を湧き出てくるようです。これが春生のアイデンティティ。

春生は、武装を整え、佐渡トキ保護センターへ向かいます。特別な存在のトキは、特別な存在の春生によって、自由になるべきだという発想です。

春生は、佐渡へ向かう途中、瀬川文緒という中学生と出会います。文緒が、ただならぬ気配を察知したとき、春生は、文緒に桜を重ねて心情を吐露します。初めての魂の叫び声です。

俺はやっと、自分の使命がわかったんだよ。人生最大の目的をしっかり掴んだんだ。明日は絶対にそれをやらなきゃいけないんだよ。だからもう、俺を迷わせるのはやめてくれないか! ・・・

どこかゲーム感覚であった春生の計画は、ここにきて痛々しいまでの自己実現への希求だったことがわかります。春生の革命ははたして成就するのでしょうか。なんともやるせない幕切れなのですが、どうでしょう。

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