【本の感想】沼田まほかる『ユリゴコロ』

沼田まほかる『ユリゴコロ』

2011年 週刊文春ミステリーベストテン国内部門第6位。
2012年 このミステリーがすごい!国内編第5位。

2012年 第14回大藪春彦賞受賞作。

人生の後半戦を迎えると、父や母の人生がどのようなものだったのか、そして自分はその中でどのような役割を果たしたのか、ふと考えてしまうことがあります。父親は既にこの世を去り、母親も健康とは言えません。自分が父親になって、家族の様々なライフイベントを経験する度に、両親のその時の思いに考えが及びます。きっと、家族のことで黙して語らなかったことも、あるはずです。

沼田まほかる『ユリゴコロ』 は、そんな自分の今の思いに刺さる作品でした。

余命いくばくもない父が隠し持っていた手記。そこには、殺人衝動にかられた女性の人生が刻まれていました。本作品の幕開けは、このように衝撃的で、 ぐぐっと物語に惹き込まれます。 。

今は亡き母親は、殺人鬼だったのか?

主人公である息子 亮介は逡巡します。手記から溢れ出すのは、母 美紗子が犯してきたおぞましい数々の罪。亮介は4冊に渡る美紗子の人生を読み解いていきます。悪意の存在しない快楽殺人者が自分の母であるという事実に向き合うのです。 心の拠り所(ユリゴコロ)に、死を求めてしまった母の人生とは・・・

幼い頃からの母親の生来の殺人衝動を、息子が垣間見るというシチュエーション。母は何のために手記を残したのか。そして父親は、何故これを手元に残しておいたのか。悲惨なラストを予感させる、まさにイヤミスです。 

しかしながら、このあり得ざる物語は、読み進めるうちに読者の心をギュっと鷲掴みにしてしまうのです。

並行して語られるのは、亮介の婚約者 千絵の突然の失踪事件。二つの物語がどのように繋がっていくのか、そししてどう決着を付けてくれるのかに興味津々です。

本作品は、著者のこれまでの作品のように、男に対する怨嗟をまき散らす事はありません。残酷ではあるのですが、予想外の結末には清々しさすら漂うのです。 行為が歪であればあるほど、純粋無垢な愛が強調されることになります。 読了してみれば、ひとつの愛の形を見出すことになるでしょう。グロテスクさに嫌悪感をもよおす前半を、後半でがらりと変えてしまう、著者のストーリーテラーとしての技が光ります。

常識的に考えればおかしな話なのですが、読了時の感情がそれを凌駕する、まさに読書の愉悦が味わえる作品です。

本作品が原作の、亜月亮画 漫画『ユリゴコロ』はこちら。

亜月亮画 漫画『ユリゴコロ』

本作品が原作の、2017年公開 吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチ 出演『ユリゴコロ』はこちら。

2017年公開 吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチ 出演『ユリゴコロ』

出だしこそ良かったのですが、原作の驚きを失くしてしまう展開です。良い話に持って行き過ぎでしょう。

同一人物を複数の役者が演じるのは分かるとして、背の高さや声質など身体的な特徴が違うと違和感が目立ってしまいます。亮介が美紗子の殺人衝動に感化されていくのも如何なものかと思います。

美紗子のターミネータばりの活躍(?)も嘘くさいんですよね。

さて、自分の両親は、平々凡々の中にも。それなりのさざ波はたっていました。自分のように大嵐に飲み込まれるような人生とは違いますが、たまに思い出しては、頼りない子供であった事を後悔してしまいます。

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