まい子専門の探偵ディスコ・ウェンズデイが主役の、奇妙奇天烈な物語です。文庫上中下巻と分量からして読む前から覚悟が必要な作品。そして読み進めながらも、途中で挫折しそうな気持を奮い立たせていく読書アスリー…
【本の感想】舞城王太郎『九十九十九』
九十九十九(つくもじゅうく)と言えば、知る人ぞ知る清涼院流水『コズミック』から始まるJDCシリーズの、異能の探偵です。あまりに美し過ぎるゆえに、その瞳をみたものは皆、失神してしまうというキャラクター設定です。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)
舞城王太郎『九十九十九』は、JDCシリーズのトリビュートでありながら、JDCシリーズの九十九十九とは別人。とは言え、本家本元の清涼院流水が、本作品のあちらこちらでちょっかいを出しているという、実にややこしいメタフィクションとなっています。本作品そのものは、著者の『ディスコ探偵水曜日』の系譜に連なる位置づけです。
■一話
九十九十九は、生まれ落ちた時から、美しさのために見たものを失神ダウンさせる異能の持ち主。看護婦の鈴木美和子=鈴木君は、そんな九十九十九を産院から誘拐するのですが、彼女の怪物的な愛情は、九十九十九の鼻を削ぎ、両目をくり抜いてしまう始末。鈴木君の伴侶である加藤淳一=加藤君に助けられ、鈴木君は刑務所へ、そして、九十九十九は、弟の鈴木努と共に加藤君の実家のある福井県西暁町へ引っ越します(ちなみに、鈴木努は、『ディスコ探偵水曜日』に登場する、大爆笑カレーです)・・・
加藤九十九十九となった九十九十九(名前だったんだ!)は、地下室へ幽閉されて、10歳の頃から、双子セシルとセリカに飼い慣らされる日々。中学生となった頃、セシルとセリカの母順子の異様な他殺死体が発見されます。それは犠牲者七人に及ぶ連続殺人の幕開けでした ・・・
冒頭からグロテスクな表現が多用されているので、苦手な方は注意されたし。以降、暴力的にも性的にもエスカレーションしていきます。13歳の九十九十九が名探偵として、事件の真相を解き明かすのですが、荒唐無稽を通り越して圧倒されることしきり。おそらく、舞城王太郎初心者の多くは、この辺で脱落することでしょう。
事件を解決した九十九十九は、刑務所を脱走した鈴木君から逃れるため、この地を離れるのでした。凌辱の限りを尽くされたセシルとセリカに別れを告げて・・・
以降、話の順序や、登場人物たちの関係性も、てんでバラバラです(九十九十九の妻の名前も、話の度に異なります)。『SPEED BOY』に似た体裁です。大まかには、不可解な事件が発生し、九十九十九が時空を超えて、ある時は事件を解決し、ある時は殺人を犯し、ある時は神になるというながれ。それぞれの話に整合性を取ろうとするのは無駄な努力です。ざっくりと読み進めないと、しんどくなるばかり。そういう意味では、『ディスコ探偵水曜日』に臨むのと同じ態度が良いでしょう。
■二話
ツトムの偽名を使い、梓と泉と同居する九十九十九。世間では、東京調布《アルマゲドン》(『阿修羅ガール』を参照されたし)が発生しています。そんな中、九十九十九の行動を先回りするかのように、清涼院流水から、原稿「一話」が届きます・・・
清涼院流水の示唆に苦悩する九十九十九。姥松義夫焼死事件を解決するものの、九十九十九の子供、寛大、誠実、正直を生んだ、梓、泉、名探偵ネコを殺害してしまいます。
■三話
妻 栄美子と子供、寛大、誠実、正直と暮らす九十九。世間では、幻影城で連続殺人事件が発生しています。セシルとセリカを捕まえた九十九十九は、制服警官連続首切り殺人鬼に拉致されて・・・
■五話
妻りえと暮らす九十九十九の腹の中から《開かれた巻物》が発見されます。九十九十九が入院中にセシルによって、りえの実家が家事に。セシルは清涼院流水と九十九十九が同一人物であると主張します・・・
■四話
《みどり公園》のトイレに住むセシルとセリカ。二人は、人を捕らえて喰っています。妻 有海と暮らす九十九十九は、草薙涼子首切りの真相を求め幻影城へ向かいます。殺したセリカの首を持参し、涼子の皮を着て九十九十九は、推理を始めます・・・
■七話
多香子と暮らす九十九十九は、西暁町のクロスハウスで、自身が弓によって射殺されたとの報を受けます。西暁町へ向かった九十九十九が見たものは、大爆笑カレーの死(エンジェルバーニーズ登場!)・・・
■六話
九十九十九が現れた三人の九十九十九。オリジナルが、その他の九十九十九を殲滅せんとして・・・
最終話は、『ヨハネの黙示録』、『創世記』の見立てまであり、壮大な物語へと風呂敷が広がります。振返ってみれば、凌辱、近親相姦、屍姦、カニバリズムといったタブーがてんこ盛りで、グロテスクであること以上に、読み進めるのに体力を要する作品でした(良い子は読まない方がよいでしょう)。ラストに辿り着いた時は(ここでの妻は有紀)、達成感の方が大きいのではないでしょうか。深読みをする体力は、もう残っていません・・・
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