【本の感想】舞城王太郎『世界は密室でできている』

舞城王太郎『世界は密室でできている』

舞城王太郎『世界は密室でできている』は、『煙か土か食い物』のスピンオフミステリです。

『煙か土か食い物』で、拍子抜けするくらいあっけなく死んでしまった名探偵 番場潤二郎、ことルンババの少年時代のエピソード。ルンババと親友 西村友紀夫の、12歳から高校三年生になるまでが、いくつかの難事件をはさみながら、友紀夫の目を通して描かれていきます。

舞台は、『煙か土か食い物』奈津川サーガ(?)と同じ福井県西暁町です(奈津川の名もちょっとだけ登場します)。

友紀夫の隣家に住んでいるルンババは、中学生にして、警察が事件の解決を依頼するほどの名探偵。ルンババと友紀夫は、身近に起きた密室殺人事件に挑むのですが、これが人を食ったような現場なのです。

一つは、友紀夫が修学旅行先で知り合いとなったツバキの愛人一家殺人事件(男をボコっているツバキの登場シーンは愉快!)。死亡してから部屋中引きずり回された後があり、母親のお腹からは胎児が取り出されていたという猟奇的なものです。

もう一つは、隣接する4つの建物で起きた15人の大量密室殺人。死体の配置が、4コママンガのように見立てられています。

ガチガチコチコチの推理ドラマが展開するかというと、然にあらず。とは言え、全くのユルユルフワフワでもない。ガチガチとユルユルの間をフラフラしている感覚でしょうか。

大量密室殺人は、驚天動地のトリックに唸ってしまいますが、エキセントリックな姉妹ツバキとエノキが絡んだ事件が、印象的です。友紀夫とエノキの青春している感じが良いのです。そして、ストーリーはクライマックス ルンババが自分の部屋に閉じ籠ってしまった事件(?)へとつづきます。

本作品は、メガネに蝶ネクタイの少年が活躍する漫画ほどではないにせよ、現実感の甚だ乏しい設定です。しかし、ありえんじゃん! だけで片付けられない、心を惹かれるものがこの作品にはあります。自分は、畳み掛ける著者のコトバに身を委ねていくうちに、法悦至極な気分に誘われてしまったようです。

一言一句をじっくり見てもさほど面白いわけではないのですが、頁一杯に書き連ねられたコトバを一気に読み進めていくと、何故か笑えてきたり、幸せな気持ちになったりします。細かい事に拘泥しないのが、舞城ワールドで遊ぶコツなのかもしれません。

“世界は密室でできている”というのは、ルンババが解決する密室殺人事件だけじゃありません。幼い頃の姉の死によって、ルンババが抱えてしまった閉塞感と捉えることができます。

本作品の、乾いた笑いに包まれた悲惨さには好き嫌いが分かれてしまいそうですが、少年の友情や愛を描いた一つの青春小説として、共鳴する部分はあるのではないでしょうか。自分は、本作品で破綻すれすれともいえる疾走感を味わったのですが、どうでしょう。

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