【本の感想】舞城王太郎『淵の王』

舞城王太郎『淵の王』

舞城王太郎『淵の王』は、舞城流の怪談話し三作品が収録された短編集です。

どの作品も、冗長ともいえる至ってフツーの会話が延々と続き、いつの間にやら不条理な怪異の世界へ誘われます。これまた舞城王太郎初心者にはキツめの作品集ですね。第三者が見ている体で物語が進みます。なので、淵の王ってのはつまり・・・え~と・・・。

■中島さおり
友達の大橋伊都からかかってきた、謎の電話に不安を覚えた中島さおり。さおりは、伊都の住む地元 福井県西暁町(!)に急ぎ、帰省をします。伊都の住居には、さおりの同級生だった杉田浩輝・美希夫婦と子供が寄生していたのでした。杉田と美希に激しくクレームをつけるさおり。しかし、美希はそれを撥ね付け、逆に伊都へ怒りの矛先を向けます・・・

単なる恋愛のもつれ話と思いきや、サスペンスフルな展開を見せ、ラストにチャイルド・プレイ的ホラーが待っています。随分、乱暴な決着の付け方ですが、著者らしいといえば、その通り。『私は光の道を歩まねばならない』という締め括りの独白は、良い味を出しています(何のこっちゃなんですが)。

■堀江果歩
堀江果歩は、「根性論」とあだ名のテニス少女。姉由紀の影響で漫画に目覚め、大学生の頃に漫画家となってテニス漫画「デュエルソウル」がヒットしました。ある日、果歩は、8年続けたその漫画に、白いワンピースの少女が描かれていることに気付きます・・・

本当は無いはずのグルニエ(屋根裏部屋)、女を刺し逮捕された痴漢の父親を持つ広瀬順、と謎をばら撒きつつ、衝撃的な結末へ。果歩が、幽霊を殺す話し『お化けを殺す。』を描き出したあたりから、怪しさが満開です。途中、正統派のホラーかと思いきや、予想とは違う方向に持っていかれました。

■中村梧堂
中村梧堂は、恋人 湯川紅色は、離婚後、流産して倒れた斉藤範子の元に駆け付けます。範子の家には、裸の傷だらけの男、瀕死の肩と両前足と頭だけの壊れた犬、女、そして異空間の穴を発見します。穴を閉じた梧堂は、女が三保谷和美と名乗る範子の元夫の浮気相手であり、範子のミイラ化した子をイヌに食べさせて、その犬を喰うという呪いをかけていたのです。腹が破裂し死亡した和美。中からは犬の胃袋に入った赤ん坊の死体が。一方、紅色は範子の入院先から姿を消してしまいます。梧堂は、範子から現場となった家を買い、紅色を救うため穴をおびき寄せようとします・・・

グロテスクで、時空を超えた本作品は、実に著者らしい仕上がりです。残酷さを孕んだラストで、梧堂がハッピーになったと嘯くあたりは、混乱で終わってしまうか否か。本作品は、舞城王太郎ファン度を試されます。

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