【本の感想】西加奈子『きりこについて』

西加奈子『きりこについて』

西加奈子『きりこについて』は、自分の残念な容姿に気付いてしまった女子の物語です。

小さい頃から自分は可愛いと思っていた きりこ。圧倒的な自尊心で、同い年のお子らも、「きりこは、可愛い」で納得してしまうのでした。

実際は、非美人(!)であり、薄々気付きながらも、きりこ を崇拝するお子たち。 きりこの一挙手一投足に、???となりながらも振り回される様が、笑えます。

確かに小さい頃は、非美人であろうが、非痩身(!)であろうが、お子様ワールドには些細な事です(幼少の頃、肥満児だった自分が言うのは何ですが)。

しかし、そんな きりこ小5の折、衝撃的な転機が訪れます。なんと、きりこは、”ぶす”(直截的な表現お許しを)だと気付かされるのです。秘かに きりこを小憎らしく思っていた自分には、ややスッキリなシーンです。人生そんなに上手くいかないのだよ、と。

本人と周りの(好意的な)勘違いで、それまでリーダーシップを取っていた きりこでしたが、長づるに従って人気者からどん底人生へまっしぐらとなるのです。

ここまでか!と思うほどの著者の”ぶす”描写は、迫力満点です。成程、これは、本物の”ぶす”であると納得せざるを得えません。

きりこの親友は、天才猫のラムセス二世。心温まる(?)交流が愉快です。著者の作品は、ちょっと不思議系のワンポイントが魅力。本作品は、人語を解する(と思われる)ラムセス二世の、人となり、ならぬ猫となりに注目です。

地獄の窯の蓋が開いた如くのどん底の きりこ。ついに引きこもりとなってしまいます。”ぶす”という蔑みに、粉々になった自尊心。はてさて、きりこは、どうなってしまう・・・?

後半にかけては、一つの出会いから人生の転機を迎える きりこが描かれます。人生の頂点から急降下のきりこ。 やがて、きりこは、逆境にあるものへのアツイ思いに目覚めるのです。笑いの中に酷いとも言える苦さが加わるのは、これまた著者の作品に多く見られます。

本作品は、長じた きりこが色々学んじゃうことを通して、読者へも勇気を与える人生の教科書となっています。前半の飛ばし気味の笑いは失速するのですが、総じて愉しく読ませてくれるでしょう。

自分のしたいことを、叶えてあげるんは、自分しかおらん。

ちなみに、自分は今でも”でぶ”という言葉を聞くとピクっとします。小学校で、身体検査の結果に「肥満症の疑いあり」と書かれ、自分が”でぶ”と気づいたのでした。おんなじ~。

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