まい子専門の探偵ディスコ・ウェンズデイが主役の、奇妙奇天烈な物語です。文庫上中下巻と分量からして読む前から覚悟が必要な作品。そして読み進めながらも、途中で挫折しそうな気持を奮い立たせていく読書アスリー…
【本の感想】舞城王太郎『熊の場所』
歳をとって右肩下がりに代謝が悪くなっているせいか、空気を吸っているだけで肥ってしまうようです。飲み会の翌日は、確実に体重は増えているので、体重計に乗るのはパスすることにしています。
臭いものにはフタを。
だいたい自分はチキンなので、見ない振りや無かったことにするのが、大好きなのです。
舞城王太郎『熊の場所』は、嫌なことに敢えて立ち向かっちゃう男の子のお話です。
小学校の同級生まーくんが、切り取った猫の尻尾を持っているのを知ってしまった”僕”=沢チン。「あっち行け阿呆、殺すぞ」と、まーくんに言われ、逃げ出してしまいました。この時、沢チンは、父親の大学生時代のエピソードを思い出します。山の中で熊と出くわし、襲われて命からがら逃げ出した父親。父親は、一旦は逃げたものの、舞い戻って熊と対峙したといいます。嫌なことを克服するには、それに向き合い、凌駕するだけの精神力が必要です。沢チンは、まーくんの家に遊びに行くことを決意します ・・・
まーくんにビビりながら、沢チンの、チキンを脱却しようとする過程が、面白いですね。逃げ回るのではなく、敢えて熊のいる場所まで戻って行く。遂に、沢チンとまーくんは、不器用ながら友情まで育んでしまうのです。全く読んでいて”耳”が痛くなります。
自分は、目を背けるより、向かい合っていくことが、良い結果を生むのは分かっています。それ以降、後ろめたさを感じませんから。分かっていながら、ちょっとした勇気が出せないでいるのです。体重のことだけじゃなくて、これは、自分の人生全般に言えのだよなぁ。
著者は、色んなことを考えて、ぐるぐるーっとなっている状態を描くのが上手です。深刻さが増せば増すほど、思考がこんがらがって発散するのだけれど、この頭の中の渦巻き状態は、文章になると笑えてきてしまいます。こんなふうに自分自身の深刻さを、客観的に笑い飛ばせれば随分楽なのでしょう。
同時収録の『バット男』は、愛がありすぎて壊れていく男女の関係を、『ピコーン』は、スーパービッチでキュートな女子の生き様を描いています。いずれも著者にしか書けない頭の中ぐるぐる系の作品だと思うのですが、どうでしょうか。
城王太郎『バット男』が原作の、倉持裕 作戯曲 『バット男』はこちら。
舞城王太郎『ピコーン!』が原作の、青山景 画 漫画『ピコーン!』はこちら。
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