【本の感想】クリス・アンダーソン『フリー―<無料>からお金を生みだす新戦略』
21世紀は、モノの経済=アトムから、情報通信の経済=ビットへ。 クリス・アンダーソン『フリー―<無料>からお金を生みだす新戦略』の主張は、 フリー(無料)の周辺から収益を得る経済モデルへ、パラダイムシフトが加速するだろう、ということですね。
論旨が明確で、実に理解しやすいビジネス書です。提示されている事例についても、可視化が上手くて、納得性が高いでしょう。例えば、レディオヘッドの無料配信の戦略は、収益をどこに求めていくかという観点で、とても示唆に富んでいます。読者を魅了するような説得力を持っているのです。
言葉としては聞きなれないけれど、フリーミアムや内部相互補助は、定着しつつあるのでしょう。贈与経済(評判や注目、自己表現といった金銭以外のインセンティブ)についても随分普及しました。本書で述べられていることは、限界費用がゼロに近いデジタル経済の中で、現実として認識できるものばかりです。もっとも、フリーの裏方の仕組みについては、本書で知識を習得することになるのですが。
しかしながら、経営戦略は、非常に立て難いのじゃないでしょうか。図体が大きい会社ほど、経営者の意思決定は、一層難しくなるように思えます。
フリーは決断を早めて試してみようかと思う。フリーは直接の収入を放棄する代わりに、広く潜在的顧客を探してくれるのだ。
小回りが利くビジネスであれば、トライアンドエラーじゃないけど、ちょっとやってみて、ダメならサクっと撤退して、イケるなら育てていく、ですね。コストをどう回収していくか、いくら売ったら、いくら儲かるかというのと違ったものを求められるのでしょう。経営分析では見えないものを洞察するセンス。肉を切らせて骨を絶つの真髄かな。
フリーはモノやサービスを最大数の人々に届ける最良の方法だが、それを目標にしていないときは逆効果になりかねない。フリーも慎重に扱わないと利益以上の損害を与える恐れがあるのだ。
当然、リスクも存在するというわけです。
フリーが利用者の決断を早めていくのなら、ビジネスを作る側のスピード感が重要になってきます。旧態然とした重厚長大なビジネスを指向していると、太刀打ちできない世界が、本格的に到来しているのです。
デジタル世界の製作者は、遅かれ早かれフリーと競い合うことになるだろう。
希少と潤沢の件りに見られるように、知的生産活動のウェイトが、ますます高くなっていくでしょう。結果として、富の偏在化を生んでしまうのかもしれません。
誰もが無料のビジネスモデルを利用できるとしても、それでお金持ちになれるのは一位の者だけだ。
チャンスと捉えるか、脅威と捉えるか・・・
フリーについて、周りと語りあってみるのは面白いですね。例えば、以下の記述はどう受け止めますか。
消費者からすると安いことと無料のあいだには大きな差がある。ものをタダであげればバイラルマーケティングになりうる。1セントでも請求すれば、苦労して顧客を集めるビジネスのひとつになってしまう。
物質からではなく、アイディアからつくられるものが多くなれば、それだけ速くものは安くなっていく。これがデジタル世界のフリーにつながる潤沢さのルーツ。
アイディアとは究極の潤沢な商品で、伝達のための限界費用はゼロなのだ。アイディアが生まれるとみずから広く遠くへと伝わることを望み、触れたものをすべて潤沢にする。
啓発された利己主義こそ、人間のもっとも強い力なのだ。人々が無償で何かする場合、自分の中に理由があるからだ。
一過性でとらえどころのない贈与経済は、注目と評判の経済と同じで、オンラインの世界に移ったとたんに突如として明白で測定できるものになりつつある。
自分は、あっさりと納得してしまったのだけれど、どうでしょう。本書は、組織内で議論を喚起し、活性化に結び付けていくのに最良のテキストです。