【本の感想】鳥羽亮『絆―山田浅右衛門斬日譚』
鳥羽亮『絆―山田浅右衛門斬日譚 』は、山田浅右衛門吉利が主役の連作短編集です。
氏家幹人『大江戸死体考―人斬り浅右衛門の時代』読了後、江戸幕府 世襲の死刑執行人に興味を持ち、本書を手に取った次第。
時代背景は、安政の大獄頃 。山田浅右衛門の七世 吉利は、徳川家御佩刀御試御用役を家職として、刀槍の試し斬りを死体を使って行う据物師です。
本作品は、死に値する罪を犯した人々を中心に、物語がつづられていきます。
情夫に逢いたいがために旦那に毒を盛った女。同情心が仇となり捕縛された夜盗。惚れた女に暴力を振るう夫を刺殺した男。息子のために労咳薬を盗もうとした女。吉利の門弟を斬殺した辻斬りの男。吉田松陰を救出しようとした吉利の門弟の志士。
吉利が、彼らの人生に終止符を打つ時にみせる、慈愛、苦悩、怒り。読了しても、余韻は、やや暫く読者の心に残ることでしょう。
吉利と、嫡男 吉豊(八世)、次男 在吉や、門弟達との温かい交流も物語に上手く溶け込んでいるようです。
山田家は、死体の肝を労咳薬として販売しており、これも作中で取り上げています。この気味の悪い事実についての吉利の正当だという理屈は、いまいちかもしれませんね。
据物師は、当時の一級の技能を持った職業人ですが、穢れという意識が付きまとうのは想像に難くありません。 実際には、山田浅右衛門は、身分を浪人として扱われていました。このあたりの苦悶は本書では表現されていません。
吉豊が、わが手で人の命を絶つことに逡巡するのを見て、吉利が語る言葉が印象的です。
わしはな、斬首で他人の命を奪っているとは思わぬ。罪人は検使与力から死罪の申し渡しがあったとき、すでに命を絶たれたのだ。・・・わしは、死罪人が西方浄土へ旅立てるよう、最後の手助けをしてやりたいと思い、斬首の剣をふるっておる。
栄達のために斬首の剣を振るった門弟が悲惨な最期を遂げる短編において、この吉利の思想を際立たせることになります。
著者を読むのは小説は初めてですが、斬首の場面は凛とした美しさを感じるし、斬り合いの場面は迫力満点。満足度の高い作品でした。
山田浅右衛門を扱った作品としては、綱淵謙錠 直木賞受賞作『斬』 も素晴らしい出来栄えです。 (リンクをクリックいただけると感想のページへ移動します)