【本の感想】柳広司『怪談』

柳広司『怪談』

柳広司『怪談』は、小泉八雲の『怪談』のオマージュで、舞台を現代に置き換えたミステリ仕立ての短編集です。

夢オチか?・・・そして・・・など、謎解きよりも奇妙な味の方が近いでしょうか。この手の作品は、往々にして、スラスラと読めて、スカッと忘れしまうものです。そもそも、本家本元の『怪談』を、しっかりと読んだことがありませんしね(今回は、チラ見しました)・・・

■雪おんな
ミノワ工務店の跡取り蓑輪健太郎は、業界パーティーで、ゆきと名乗るコンパニオンに、何故か惹かれます。謎めいたゆきに、のめり込む健太郎。そして、ついにプロポーズを決めるのでした・・・

あまりに有名な「雪おんな」をどう料理してくれるか、大いに期待しました。オチは、思いがけないものなのですが、タイトルからのミスリードは、今一歩でしょうか。

■ろくろ首
磯貝平太の勤務する病院の菊地院長が失踪しました。実は、薬の横流しを咎められた平太が、院長を殺害しバラバラにしたのです。警官にしらを切り通す平太でしたが・・・

本家本元の「ろくろ首」を知らないとハテナ?となります。そう、ろくろ首は、首が長く伸びるだけではないのです。

■むじな
赤坂俊一は、坂道でDVにあったと思しき女性を助けます。彼女を連れて家に向かうとそこには死体が。交番に駆け込んで事情を説明するも、何故か赤坂は逮捕されてしまうのです・・・

どうもこのオチは、好みではありません。怪談をテーマにしているから、ギリセーフ?ちなみに、”むじな”は、”のっぺらぼう”のことですね。

■食人鬼
室田勝巡査長と作庭邦男巡査は、絶滅危惧種の肉を食す「美食倶楽部事件」を捜査し、そこで人肉を発見します。室田が本庁に応援を要請しているうちに、作庭は睡魔に襲われて・・・

テレビではタブーですが、「ほんとにあった怖い話」調のお話しです。ちなみに、本家本元では、”じきにんき”と読みます。

■鏡と鐘
遠江聡美の元に身に、覚えのない宅急便が届くようになります。聡美を語った、ボランティア物資大募集サイトが存在するようです。探偵の井川に調査を依頼したところ、サイトは聡美自身が依頼して作成されたものだと判明します。しかし、聡美はこのことを全く憶えていません・・・

お話しとしては面白いのですが、欲を言えば、本家本元の「鏡と鐘」のオチに解釈を与えるような結末が読みたかったなぁと。

■耳なし芳一
《鬼火》ボーカル枇杷木芳一ことヨシカズは、正体不明の女性の前でライブをしています。条件は、ライブのことを誰にも言ってはいけないというもの。しかし、ヨシカズは、ライブハウス「阿弥陀堂」のオーナー赤間元了に、打ち明けてしまうのでした。程なくして、ヨシカズは、ライブ中に怪我を負ってしまいます・・・

本短編集のラストを飾るのは、ご存知「耳なし芳一」。ストーリーが本家本元をなぞっており、なおかつオチが効いています。本作品が、マイ・ベストです。

本家本元の『怪談』を読むのが億劫な方は、鷹の爪団の『3分で分かる小泉八雲の怪談』シリーズをご覧あれ。

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