【本の感想】皆川博子『骨笛』

皆川博子『骨笛』(1993年)は、読者をあやかしの世界に誘う短編集です。

収められた8編は、独立した作品として読み進めていると、各短編がつながっていることが分かってきます。ただ、最終話『骨笛』を読み終えても、全体としての絵が浮かび上がってこず、ぼんやりと霧の中を彷徨っているような読後感を味わいます。ふいっと現われる不可思議は、有り触れた日常との境目が曖昧で、幻想文学の試みとして楽しめます。

■沼猫 
ウサギママのコーヒー・ショップ『カト』で語らう、中学生の高谷マユと、またいとこ高志を描いた作品です。本短編集のプロローグですが、本作品のみでは、著者の表現したいものは分かりません。

■月ノ光
ぼくが、少年の頃出会った、骨の歌をうたう家出少女アヤコ。大学生の頃、再会したアヤコは学生運動の運動員と同棲し、赤ん坊を背負ていました。不幸なアヤコを見かねたぼくは、運動員と殴り合いになり ・・・

ストーリーを書くとつまらないのですが、話の流れを意図的に操作して、驚きを仕掛けています。ぼくは、アヤコの子であるミオに、骨笛を渡しますが、実は、ぼくは ・・・という幻想譚です。

■夢の雫 
母の離婚で一軒家に引っ越してきた中学生の泉。一つ年上の夏生と『夢辞典』の捲ります。

思春期の、男女いとこ同士の危うさをさざ波のように表現した作品です。二人が眺める眠る少年のイラストが、同時刻、映画館で泉の母親の観るものとリンクして耽美的な世界を演出しています。

■溶ける薔薇 
高校生の秋人は、父親の海外転勤のため、祖母の家で暮らすことになります。そこには、母琉津子の血のつながらない妹 由里子が同居していました。琉津子は、由里子に遺産を独り占めさせないよう秋人を住まわせることにしたのです。

初対面同士の、由里子と秋人のアカデミックな会話が長々と続き、徐々に由里子の琉津子に対する悪意が顔を覗かせます。他とはつながりのない単独の短編です。

■冬薔薇
伯母汐子から呼び出しを受けた典子。絶縁した祖父が会いたいと言うのです。ところが、汐子は、祖父に会わせることもなく、典子に遺産の放棄を迫るのでした。そんな典子の目の前に現れたのは、14歳年下の叔母碧。碧は、祖父は死に碧は殺されたと告げます ・・・

こちら幽霊話も、他の作品とつながりのない単独の短編です。しいてつながっているとすると、「溶ける薔薇」の遺産絡みでしょうか。

■噴水
中一のマユは、お気に入りの噴水のところで、同じ年の泉と出会います。そして、泉に誘われるまま地下室へ向かうのでした。泉に沼猫の話をしようとするマユ・・・

その噴水のそばのティールームでは、夫の上司婦人 根本昌子に、高圧的なもの言いをされている主婦の姿があります。二人の少女の姿を目に止めた主婦は、上の空で、ますます、昌子を激高させるのでした。

「沼猫」のマユと、「夢の雫」の泉が邂逅するのですが、泉は流産の末に自殺していました。二人のエロチックな関係を匂わしつつ、幽霊話しにもつれこんで、並行する二つの話をつなげるという、混乱一歩手前の分かり難い作品です。

■夢の黄昏
二十年前からわたしにつきそう幽霊。初めて会ったのは、男友達田浦と待ち合わせていた時でした。結婚をし、子供が生まれ、そして離婚 ・・・。幽霊は二十年前と同じくわたしの前に現れます。

わたしの娘は「夢の雫」の泉、そして幽霊は ・・・。こちらは、明確に混乱してしまいました。サプライズにサプライズを重ねて、ぶつっと切れてしまうのです。答えを求めようとするのは、いけないのかも。

■骨笛
ウサギママの店で、人妻となったマユ(真由)とテレビ局勤めの高志が語らいます。もう一人の客は、ミオ。世間ではみとめられていない画家です。

「月の光」のミオが、骨笛を吹いて本作品は幕を閉じます、

う~ん。あらすじを書きつづっても、上手く作品の雰囲気を表せません。実際に、読んでみるしかないのだろうなぁ。

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