【本の感想】古川日出男『ロックンロール七部作』

古川日出男『ロックンロール七部作』

古川日出男『ロックンロール七部作』は、七大陸を舞台にした20世紀ロックンロールの発展史です。(アフリカ大陸、北米大陸、ユーラシア大陸、オーストラリア大陸、インド亜大陸、南米大陸、南極大陸。時は、1901年1月1日から2000年12月31日まで)

語り手”あたし”がつむぐのは、まさにロックの精神に裏打ちされた破天荒なほら話。登場人物が次々にバトンタッチをして、ストーリーを作り上げていきます。生々流転する人々の生き様と死に様に、ロックンロールが重なり合う、疾走感あふるる全七話に、魂を震わせよ!(と、それほど大袈裟なものではありませんが)。お話よりも、著者の博識ぶりに感嘆していまいました。

■ロックンロール第一部
1966年、イギリスで誕生したポップ・スター曇天(クラウディ・ローリングス)が世に出した『あなたの心臓、むしゃむしゃむしゃ』が、北アフリカに墜落した飛行機から砂漠の民につながって、人類学者、王、民兵を経て、ナミブ砂漠の三姉妹の子の子守唄となるまでがつづられます。

人を殺し、砂漠を逃亡中の曇天の耳に聞こえたのは、自身が生み出したロック。曇天の途中退場は、残念です。

■ロックンロール第二部
アメリカとカナダを結ぶロックンロールとなる何かの物語。モジョ・ハンドと人喰い鰐の体内から取り出した呪物を元に、ブルースマンとしての技巧を極めた鰐ハンターの孫一セント。やがて、二つの呪物のために、略奪と殺人が繰り返しされ、二セント、三セント、・・・と引き継がれます。そして50年、アザラシの腹から呪物の手に入れたイヌイットの少年は、曲作りを夢想します。

ブルースギターの名手の伝承の始まりが、鰐に喰われた流れ者のブルースマンのお守り(モジョ・ハンド)と鰐の腹から出てきた針金というのが面白い!

■ロックンロール第三部
2000年、アマチュアロックンロールバンドの七人は、シベリア鉄道で『ロシアン・ロックンロールの王は誰だ?』コンテスト出場のためモスクワを目指しています。メンバーたちの喧々諤々、そして、”針は飛んで”、ロシア・ソ連暗黒の歴史が時制を前後させ、登場人物を複雑に絡ませながらつづられます。

メンバー間のうだうだ話から、突然、血生臭い話へとガラリとトーンが変わります。前半は違和感ありでしたが、後半の畳み掛けは著者らしさ満開。

■ロックンロール第四部
オーストラリアの私生児ディンゴは13歳にして、プログラマとして自立するティーン。現実と夢の境、”無”に嵌まり込んでいます。強制収容された州立病院から脱走したディンゴは、犯罪を重ねていくのでした。

一番ロックっぽい作品です。登場人物の多くはなく、話が入り組んでいないのでストレートなロックと表現すれば良いでしょうか。

■ロックンロール第五部
エルビス・プレスリーのショウを観て感化されたインド人緑っぽい緑は、ラスベガスで一攫千金を得て、インド映画に投資しようと企てます。しかし、7本の映画は記録的な大コケをしてしまうのでした。

ボリウッドを舞台にした何やらと思いきや、次々に主役が交代し、エルビスにくるりと戻ってくるという荒業です。映画スタッフ壺な感じという命名がツボ!

■ロックンロール第六部
18歳でプロデビューを遂げたブラジルのタンゴ・ダンサー武闘派の王子様は、決闘で死した父親の復讐をしなければなりません。成し遂げなければ、財産を相続させないと遺言書に書かれていたのです。

物語として面白い作品。武闘派の王子様が弟子入りしたのが、幸運な亀って!修行の日々が爆!

■ロックンロール第七部
いよいよ舞台は、南極大陸。犯罪を犯し、シカゴから南極大陸に上陸した小さな太陽の物語です。

本作品もロックっぽいですね。20世紀に拘る語り手”あたし”の”超ヘンテコ”個人史が挿入されます。

本作品集は、ストーリーを語るのが難しいですね。ということは、時間が経つと、ますます語れなくなり、いずれ忘却の彼方・・・。文学のロックンロール的な表現は、素晴らしいのだけどなぁ。

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