【本の感想】薬丸岳『ハードラック』

薬丸岳『ハードラック』

薬丸岳『ハードラック』は、強盗殺人の罪を着せられた青年が、真相を究明するために奔走するサスペンスです。

少年犯罪、被害者家族・加害家族といった、答えの出し難いテーマを得意(?)としている著者ですが、本作品は分かり易い展開で、拍子抜けをしてしまいました。ミスリードを試みてはいるものの、所々、無理がありますから、興を削がれます。

長野から上京し派遣切りにあった相沢仁は、25歳になる今も、無職のままネットカフェで暮らしています。義理の父 光男に疎まれ、優秀な義理の弟 秀雄には劣等感を抱きと、帰るところがありません。おまけに知己となった芝田に、まんまとなけなしの全財産を騙し取られてしまうのです。このあたりの底辺感の描写は、流石、薬丸岳。なす術なしの閉塞感が、痛々しくすらあります。

ネットの闇サイトの募集から、森下と名乗る人物の依頼で、犯罪に手を染めてしまった相沢。ついには、自らが、ネットで人を集め大きなことをしようと動き始めます。

相沢の募集に応じたのは、匿名で呼び合おうを決めたウォッカ、バーボン、ラム、テキーラ、そして相沢の5名。バーボンが言い出した強盗の計画にびびるウォッカ。ウォッカ以外の者たちは、軽井沢 神谷信司宅で強盗を決行するのですが、途中、相沢は何者かに殴られ昏倒してしまいます。気が付いた時には、別荘に火が放たれており、メンバーは皆、既に散り散りに。そして、焼け跡からは三人の遺体が見つかります・・・

放火殺人の疑いが降りかかる相沢。誰が何のために相沢を嵌めたのか。相沢は、ウォッカこと鈴木を脅し、一緒にメンバーたちの行方を探ります。ここから、相沢の探索行が始まるのですが、都合の良い展開にやや興ざめです。そもそも、ネットで偶然集めた者たちに、何らかの意思が働いているのが納得し難いのです。ウォッカの脱落をミスリードの仕掛けとするなら、相沢以外のメンバーによる連携プレー以外は考えられません(これだとつまらない)。

メンバーそれぞれの正体を明らかにしていく相沢。しかし、バーボンをやっと探し当てた時、相沢はバーボンこと菅野剛志の死体を見付けてしまうのです。指名手配がかけられた相沢が取った手は、自身を犯罪に巻き込んだ森下の手を借りること。ここにきて、ようやく、事件の真相が明らかになっていきます・・・

思わぬ真犯人登場となるクライマックスですが、これはいただけません。伏線は確かに張られているのですが、すんなりとは腑に落ちません。誰も信じてくれない系のサスペンスの割に、ハラハラが少ないのも面白味を欠いている一因です。

締めくくりでは、どんより感が増量してしまいましたよ。どよーん。

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