【本の感想】薬丸岳『死命』

本の感想 薬丸岳『死命』

薬丸岳『死命』は、余命を賭けて己の望みを全うしようする二人の男の執念の物語です。

性的欲求が高まると殺人衝動が起こる榊信一 は、余命宣告されたことを契機に自身の欲望を開放し、次々と殺人を犯します。正体不明の連続殺人犯を追うのは、きしくも同じく余命宣告された刑事 蒼井凌 です。現実的かどうかは置いておいて、追うもの、追われるもの、ともに長く生きられないという命のタイムリミットの設定に、出だしからぐぐっと惹き込まれます。

二人は、命尽きるまで自らが定めた使命(死命)を全うしようとします。読み進めながらそれぞれの人生に分け入ると、病が命を削っていく様に戦慄を覚えます。死が先か、それとも己の望みを全うすることが先か。カウントダウンするかのような、ヒリつく緊迫感がまとわりついてきます。

自分が余命を宣告された立場ならどうでしょう。死への恐怖を払拭するためだけであっても、残りの生を賭けて望みを叶えるエネルギーを持ち続けることができるのか。正義を度外視すると、榊の執念よりも、蒼井の執念に違和感をおぼえてしまいました。

本作品は、最初から落としどころの想像がつきます。読了した際には想定の範囲内に収まったという感想をもつのではないでしょうか。既定路線ではあるものの、著者は、読者を飽きさることなくラストまで引っ張っていってくれます。榊と恋人 澄乃の悲恋をおりまぜる等、ストーリーに起伏を持たせてくれたからなんですね。

ただし、読者の、著者の作品に期待する、運命が劇的に交差するような展開はいまひとつです。家族の再生の物語にしてしまうのも、できすぎですかね。蒼井が口にする、刑事の勘という昭和なモチベーションは、緊張感を削ぐようで、ちといただけません。

2019年5月19日 吉田鋼太郎(蒼井凌 役) 、賀来賢人(榊信一 役) 出演『死命』がテレビ朝日にて放送されました。