【本の感想】東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

2012年 第7回 中央公論文芸賞受賞作。

東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は、悩みを抱える人々と、彼らの悩み相談を引き受ける雑貨屋ご主人に起きた、時空を超えるキセキの物語です。

いくつかのお話が入り組んでいて、下手をすれば混乱に陥りそうですが、これをすっきりと読ませるのは流石のお手並み。さらに、人生の機微に触れ、ほんのりと感動を与えてくれるのですから、文句の付けようがありません。

本作品を無理矢理に分類すると、ファンタジーに位置づけられます。謎解きは本作品の魅力に一つですが、それを不思議!で片付けてしまうようなファンタジーの設定に押し込んでいない点が良いのです。

ナミヤ雑貨屋の店主 波矢雄治は、店の牛乳箱を介して相談事を受け付けていました。どんな無茶なお悩みにも、波矢は知恵を絞って誠実に答えます。とんち問答のようなやり取りは、徐々に近所の人々の評判を得るのでした・・・本作品は、この雑貨店のお悩み相談がベースとなって、それぞれの物語をつないでいきます。

■回答は牛乳箱に
敦也、翔太、幸平の三人が逃げ込んだのは空き家となっている雑貨屋。ここに、「月のウサギ」という匿名の手紙が投函されます。オリンピック選手候補である「月のウサギ」には恋人がおり、その恋人の余命がいくばくもありません。オリンピックに専念すべきか、それとも恋人に寄り添うべきか・・・という相談の内容です。敦也ら三人は、戯れに「月のウサギ」とやり取りをするうちに、その手紙が40年目から来ていることに気付くのでした・・・

「月のウサギ」は、敦也ら三者三様の回答に、深い洞察を見てしまいます。あり得ざるシチュエーションであっても、物語の展開上に違和感が生じません。上々の出だしです。

■夜更けのハーモニカ
クリスマスイブの日、児童養護施設『丸光園』でギターを演奏する松岡克郎は、八年前に思いを馳せます。大学を辞め音楽の道に進んだ克郎でしたが、上手くいかず家業の魚屋を継ぐべきか悩んでいたのです。ナミヤ雑貨店に「魚屋ミュージシャン」として相談した克郎へ、思いもかけない辛辣な回答が寄せられて・・・

そして現在。突然の火事が『丸光園』を襲います。取り残された少年タツを救うべく、克郎は劫火の中へ・・・。夢を諦めかけた青年の思いが、連綿と受け継がれていくという悲しくもロマンチックな物語です。

■シビックで朝まで
波矢雄治の息子 貴之は、癌を患った父親へ雑貨屋を閉めて同居しないか、と持ち掛けています。先が長くないのを知る雄治は、自分の33回忌に、新聞広告を出して欲しいと頼みます。自分の回答内容が、その後の人生にどう影響を与えたか知りたいと言うのです。不倫の子を出産後、自殺したといわれる「グリーンリバー」に対する回答へ、後悔の念を抱いていた雄治・・・

ここで、雄治の願いが、奇蹟を生んだことが判明します。前二作の登場人物たちが、接点を持ち、読み進めながらワクワクしてしまう物語です。

■黙禱はビートルズで
故郷に戻ってきた木彫り職人 藤川博は、中学生の頃、父の仕事が上手くいかなくなり夜逃げを余儀なくされました。当時、ナミヤ雑貨店へ「ポール・レノン」の名できまぐれに相談したことを思い出します。集めたビートルズのアルバムを友達に売り、両親を別れて施設へ入った藤川。今、藤川は、両親のその後を耳にします・・・

こちらも切ない物語です。ただし、奇蹟は、ビートルズがつなぐ縁ぐらいで驚きは少なめでしょう。

■空の上から祈りを
『丸光園』出身の武藤晴美は、OLを辞めて夜の世界へ行こうかと悩み、「迷える子犬」としてナミヤ雑貨店に相談をします。すると、回答には、未来を予言するかのような投資を促す内容が書かれているのでした・・・

「回答は牛乳箱に」の三人組 再登場で、晴美とのそれこそ奇蹟の因縁話しが明らかになります。「月のウサギ」こと北沢静子や藤川、さらには波矢雄治と『丸光園』のつながりも見えて、ワクワクが再燃する物語です。三人組が試しに入れてみた白紙に対する、過去からの雄治の回答にやられました。

本作品が原作の、2017年 公開 山田涼介、村上虹郎、寛一郎、西田敏行 出演 映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』はこちら。

2017年 公開 山田涼介、村上虹郎、寛一郎、西田敏行 出演 映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

脚本がしっかりしていたからでしょうか、気を抜いて観ていても筋を見失くことなく、きっちりと感動することができました。ただし、「黙禱はビートルズで」は、映像化はされていません。全編を通したつながりは薄いからなぁ・・・

本作品が原作の、2017年公開 ワン・ジュンカイ、ディルラバ・ディルムラット、ドン・ズージェン 出演 映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟ー再生ー』はこちら。中国版リメイク作品です。

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