【本の感想】東野圭吾『危険なビーナス』

東野圭吾『危険なビーナス』

東野圭吾『危険なビーナス』は、巻き込まれ型のサスペンスです。

とは言え、ハラハラドキドキはあまり感じられず、著者ならではのユーモアミステリのゆるゆるとした味わいがあります。自分としては、ハード系の東野圭吾が好みなので、本作品にはのめり込むことができませんでした。性に合わうか否かで言うと、著者の作品はアタリ、ハズレがハッキリしているようです(そんなに著者の作品を読んでいるわけではないのですが)。

獣医師 手島伯朗の元にある日、弟 明人の妻だと主張する楓が、訪ねてきます。伯朗は、父親が違う9歳年下の明人とは、疎遠な関係です。いきなり現れた義妹の存在に当惑を隠せない伯朗。弟の結婚の事実に驚く間もなく、楓は明人が行方不明になっており、一緒に探してくれるよう懇願します。

冒頭から、伯朗の生い立ちが語られます。伯朗は、売れない画家 手島一清の息子でしたが、一清が亡くなり、母 禎子が矢神康治と再婚したことで素封家 八神家の一員となったという設定です。

禎子と康治の子 明人が生まれてから、八神家に居場所を無くした伯朗。明人は、八神家の血を引くだけなく、天才でもあったのです。大学生となった伯朗は、手島の姓に戻り、家を出て10年の間連絡すら取りませんでした。このあたりは、ハード系のドロドロ因縁話を期待したのですが、そうは思い通りにはなりませんね。

現八神家の当主 康治が死の床にある今、康治の兄弟らで遺産を巡る丁々発止が勃発しようとしています。そんな最中、シアトルから帰国した明人が忽然と姿を消したと楓は訴えます。楓に促され、縁を切ったはずの八神家に向かう伯朗。康治の弟妹、従妹らは、伯朗と楓に冷たい眼を向けるのでした。美人にめっぽう弱い伯朗を翻弄し、思い通りに付き従わせる楓(カーリーヘアってか!)。むくむくと、毒婦の予感がするのですが、東野圭吾たるもの、そう単純な話ではないだろうと読みながら抑制がかかります。ただ、嫉妬に狂って電話をかけまくったりと、伯朗のヘナチョココぶりには、読み進めながら辟易としてしまいました。怪しい言動の楓に対して、伯朗は、見たいものしか見ない態度です。おいおい、弟の嫁だよ。

明人の失踪は、16年前に実家で事故死した母、一清が死の間際に残した一枚の絵へと、伯朗周辺の過去を掘り起こしていきます。クライマックスには、やっと伯朗が、推理の冴えと男を見せてくれます。登場人物たちの、複雑に絡み合って形成した事の真相は、ちょっとした驚きです。もっと驚きは、敵かな?味方かな?の楓の正体。これが許容できるかで、本作品の評価は決まってしまいそう。ミステリにある程度のリアルを求める読者は、納得し難いかもしれません。そもそも(愛人と愛人の子を康治の父親が養子にしているなど)八神家の複雑な家庭環境って、物語にほとんど影響を及ぼしていないような・・・。ミスリードの試み?ん、ん、ん・・・。矢神勇磨という伯朗の敵役を配置したのは、盛り上がりに一役買っているのは確かなのだけど。

ラストは、コージー・ミステリっぽいね。

2020年 放送 妻夫木聡、吉高由里子 出演 ドラマ『危険なビーナス』。さて、原作をどう変えてくれますか。

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