【本の感想】東野圭吾『夜明けの街で』

東野圭吾『夜明けの街で』

東野圭吾『夜明けの街で』は、不倫をテーマにしたミステリです。

妻帯者の、大きく揺れ動く心模様が主軸となってストーリーは展開します。不倫ものにありがちなエロチックなシーンは殆どなく、この手のお話しが苦手な読者でも、抵抗感は少ないかもしれません。

建設会社に勤める渡部は、不倫をするヤツに軽蔑の眼差しを向けるほどの家庭人。九年前に結婚した妻の有美子と娘園子の三人暮らしです。こういう人に限って・・・という典型でしょう。

そんな、渡部がひょんなきっかけで派遣社員 仲西秋葉と近づきになります。

泥酔した秋葉を送り届ける際、スーツに吐瀉物をかけられた渡部。秋葉の謝らない態度に腹を立て、強く注意をします。本気で叱ってくれる人ってステキ!な、ありがちの始まりです。暗い何かを背負っている秋葉を、渡部は放っておけなくなります。そして、秋葉は、来年の3月31日に、心に秘めていることを全て話すと渡部に告げるのです。うーん、ありがち過ぎて、不倫のパロディかと思ってしまいました。

二人が関係を持つのにそれほど時間はかかりません。毎週木曜日の逢瀬を重ねます。ここから渡部は秋葉にぞっこんです。友人新谷の小言もなんのその、姑息なアリバイ工作でとにかく秋葉と会う時間を捻出します。どう見ても奥さんにはバレるでしょう。不倫を軽蔑していた男が、嵌ってしまったどろ沼。秋葉は、渡部を嫉妬させたり、きゅんとさせたりが巧なのです(スキー場のエピソードは男心をくすぐります)。ステレオタイプではありますが、客観的に見て馬鹿な行動を取り続ける男を、著者は活写します。あぁ、読んでいて恥ずかしい・・・

ある時、渡部は、秋葉の生家で、父の秘書であり不倫関係にあった本条麗子が刺殺されたことを聞きます。強盗の仕業としてかたずけられていた15年前の殺人事件。時効が迫る中、芦原刑事や麗子の妹 釘宮真紀子は、秋葉に疑いを抱いています。秋葉の犯人説に動揺する渡部。それでも渡部は、妻子を捨て秋葉と一緒になろうと誓うのです。

そして、3月31日。事件の現場で、渡部、父、亡き母の妹 浜崎妙子ら関係者の前で、秋葉の口から真実が語られます!・・・とはいえ、事件は、びっくりするような顛末ではありません。本作品は、一種の復讐譚になるでしょうか。そして、渡部に突き付けられた現実とは・・・。ダメダメじゃん!

本作品の不倫のリアルを読むにつけ、時に男っていうのは、結末が想像できても愚かしい事するなぁと思ってしまいました。ミステリの感想ではないけれど・・・

収録されている「おまけ 新谷君の話し」は、渡部に懇々と説教をする新谷の、過去の過ちです。なるほど、本編の語りに、妙に説得力があるのはこれがあるからですね。

本作品が原作の、2011年 公開 深田恭子、岸谷五朗 出演 映画『夜明けの街で』はこちら。

2011年 公開 深田恭子、岸谷五朗 出演 映画『夜明けの街で』

秋葉(深田恭子)と渡部(岸谷五朗)のいちゃつきが、ちっともいやらしさを感じないという点で、原作の雰囲気そのままです。原作はミステリとしての読めるのですが、映画はそれに比べると薄味ですね。ただし、渡部の妻 有美子(木村多江)の笑顔には凍り付きましたよ。

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