【本の感想】薬丸岳『Aではない君と』

薬丸岳『Aではない君と』は、殺人を犯した少年の父親が、苦悩と後悔と迷いの日々を送る姿を描いた作品です。

薬丸岳『Aではない君と』

著者の十八番(!)のテーマで、相変わらずのどよ~んと重い作品となっています。自分も息子を持つ父親として、主人公に自身を重ね合わせてしまい、さらにどよ〜んとしてしまいました。

吉永圭一は、建設会社社員として、仕事で成功を収めつつあります。離婚し、子供と離れてい暮らしているものの、社内の恋人 美咲との交際も順調です。しかし、息子である青葉翼が、同級生の藤井優斗を刺殺した疑いで逮捕されてから、吉永の人生はガラリと変わってしまうのでした・・・。

殺人を犯した父親が、社会からどのように見られ、苦境に立たされていくかがじっくりと描かれていきます。親とするならば、まず、我が子の無実を信じるでしょう。本作品も、父親が真相を究明する展開を予想しました。しかし、状況証拠、そして本人の自供から、殺人は間違いのない事実です。動機についてはだけは、一切を語らない翼。つめかけるマスコミと、世間の冷たい眼に晒されながら、父として息子と対峙しようとするのですが、上手くいきません。(味方を装って近づくマスコミの手口、許すまじ!怒!)

元妻 純子はパニック障害を起こしてしまい、翼とのことを一身に背負う吉永。恋人とも別れ、仕事も閑職に回ります。ひょっとして、翼のS.O.Sを聞き逃してしまったのか?吉永は、息子から自ずと距離を置き始めてきたことに気付きます。仕事もプライベートも順調だと、意識せずとも子供への思いの優先順位が下がってしまう。自分の人生を顧みて、読み進めながら胸が痛くなる瞬間です。

吉永が頼りにしたのは弁護士 神崎京子。頑なな翼に、心が折れそうになる吉永を神崎は𠮟咤激励し続けます。弁護士である優斗の父親の激烈な感情や、調査官 瀬戸の厳しい叱責を受け止め、吉永は少しづつ翼の心を開いていきます。やがて、吉永は、翼と優斗の関係性に気付くのでした・・・。ここでは、ありがちな真相が浮き彫りにされます。いやいや、これでは終われませんよ。

事件から2年後。少年鑑別所から退所し、一人暮らしを始めた翼にスポットが当たります。殺人者としての過去が、如何に今後の人生に暗い影を落としてしまうのか。微かな希望をぐしゃりと潰してしまう、世間の残酷さが描かれます。翼の心の叫びを聞いた吉永の心情を察すると、やるせない気持ちが湧き起こるでしょう。ここにきて、ようやく真実を吐露した翼。自分の罪と正しく向き合うことを決意するのです。

本作品は、翼の殺人に至る動機が謎として提示されます。しかしながら、自分は、その解明よりも吉永の目線で翼を見続けました。吉永が、決して強い人間ではないからこそ、真に迫っているのです。・・・でも、どよ~ん。

本作品が原作の、2019年 放映 佐藤浩市、天海祐希 出演 ドラマ『Aではない君と』はこちら。

2019年 放映 佐藤浩市、天海祐希 出演 ドラマ『Aではない君と』
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